メッツの千賀滉大が16日(現地時間)、ナショナルズ戦の9回に登板し、11球で3者凡退に抑えて今季3セーブ目を挙げた。4-3の1点差。最後の2人はどちらもお化けフォークで空を切らせている。
セーブは3登板連続。8月に入ってからの5登板は、5イニングを投げて無失点、被安打はわずか1本である。
ところが、千賀の今季成績は0勝8敗、防御率7.79。開幕はローテーションの一角だった。最後に先発したのは7月31日である。2023年には29試合に先発して12勝、202個の三振を奪っている。
18試合に登板して、いまだ勝ち星がない。その投手がいま、9回のマウンドに送り出されている。変わったのは、投げ分ける球種の数だった。
8敗のうち7敗は、先発でついた
役割ごとに分けると、輪郭がはっきりする。
| 2026年の役割 | 登板 | 投球回 | 自責点 | 防御率 | 敗戦 |
|---|---|---|---|---|---|
| 先発 | 8 | 31回2/3 | 34 | 9.66 | 7 |
| 2イニング以上の救援 | 3 | 10回2/3 | 7 | 5.91 | 1 |
| 1イニング前後の救援 | 7 | 7回1/3 | 2 | 2.45 | 0 |
残る1敗は6月28日、5回2失点で投げたロングリリーフでついたものだ。
ただし、ブルペンに移ったこと自体が効いたわけではない。2イニング以上のロングリリーフでは防御率5.91、7月18日には1イニングあまりで2失点している。いちばん下の2.45という数字も、中身は8月に偏っていて、7月の2登板だけを取り出せば2回1/3で自責2、防御率7.71になる。はっきり動いたのは、8月に入ってからだ。
もうひとつ、成績表からは見えない空白がある。千賀が4月26日に先発したあと、次にマウンドへ上がったのは6月16日だった。51日間、1試合も投げていない。 その理由は成績データには残らない。この記事で扱えるのは、あくまで投げた球のほうである。
7球種を散らしていた男が、2球種で8割8分
1球ごとの計測データを開くと、変化は一目で分かる。
| 球種 | 先発8試合 | 8月の5登板 |
|---|---|---|
| フォーシーム | 37.9% | 61.3% |
| フォーク | 21.1% | 26.7% |
| カッター | 20.0% | 4.0% |
| スイーパー | 9.9% | 6.7% |
| スライダー | 6.4% | 0% |
| シンカー | 4.4% | 1.3% |
| カーブ | 0.3% | 0% |
先発の千賀は、7種類の球を投げ分けていた。先発は同じ打者と二度、三度と向き合う。カッターもスイーパーもスライダーも、手の内を隠すための持ち駒に見える。
8月の千賀は違う。速球とフォークの2つだけで、投球の88.0%を占めている。 カッターは5球に1球から25球に1球へ。スライダーにいたっては1球も投げていない。
絞った分、1球あたりの数字は上がった。フォーシームの平均球速は先発時の154.6キロから156.5キロへ。8月の5登板では161.4キロを計測した球もあった。1イニングで出し切る投げ方になった、と読める。
四球が半分になった
この5試合でいちばん大きく動いたのは、次の数字である。
| 先発8試合 | 8月の5登板 | |
|---|---|---|
| 9イニングあたり与四球 | 6.82個 | 3.60個 |
| ストライク率 | 59.1% | 64.0% |
| ゾーンに投げた割合 | 45.6% | 52.0% |
先発時の千賀は、ゾーンの中に投げ込めた球が半分に届かなかった。9イニングに換算して6.82個の四球。走者を置いてから勝負するしかない投手が、7種類の球で的を絞らせまいとしていた、という並びに見える。それが31回2/3で防御率9.66という結果になっている。
いまは投球の半分以上がゾーンの中に入り、四球はほぼ半減した。防御率9.66の投手が5イニング無失点になった理由として、いちばん直接的なのはここだ。
なお、この記事の主張に都合の悪い数字も出しておく。振らせた球を空振りにする割合は29.5%から25.7%へ、むしろ下がっている。ただし8月に振ってきたのは35球。先発時と同じ29.5%だったとしても空振りは10球で、実際の9球との差は1球あまりしかない。読み解けるほどの幅ではない。
振ってきた3球のうち、2球が空を切る
一方で、決め球のフォークは数字の上ではっきり跳ねている。空振り率は先発時の43.1%から66.7%。振ってきた12球のうち8球が空を切った。
8月の5登板で奪った三振は7つ。その決め球の内訳が、この記事でいちばん雄弁な数字かもしれない。
- 8月6日 ガーディアンズ戦 ロウをフォーシーム、マルティネスをフォーク
- 8月10日 ブレーブス戦 オルソンをフォーク、ハリスをフォーク
- 8月14日 ナショナルズ戦 二死一二塁からオルティスをフォーク
- 8月16日 ナショナルズ戦 テナをフォーク、フォードをフォーク
(8月4日は無失点に抑えたが三振はゼロ)
7つのうち6つがフォーク。しかも7つすべてが空振り三振で、見逃しは1つもない。 156キロの速球を待たされた打者が、21キロ遅い球に手を出し、当てられない。この形が、直近4登板のすべてで成立している。
速球でゾーンを押してストライクを稼ぎ、フォークで決めにいく。8月の千賀は、2つの球にはっきり役割を分けた。
もっとも、都合よく解釈しすぎるのは危ない。8月の5登板は75球しかない。フォークの66.7%も、振ってきた12球のうち8球という数字である。三振7つという母数も含めて、5試合の傾向が来月も続く保証はどこにもない。
そして、球種を絞ったことと1イニング限定になったことは、この母数では切り分けられない。3人しか相手にしないなら球を散らす必要がなく、全力で投げれば球速も上がる。球種の変化は、役割変更の結果でもありうる。
なぜ9回だったのか
9回が空いたタイミングは、日付を並べれば見えてくる。
8月10日、メッツは守護神デビン・ウィリアムズを右肩の故障で15日間の負傷者リストに入れた(8日に遡及)。16セーブを挙げていたクローザーの離脱である。同じ日、千賀はブレーブス戦の9回に登板して、メジャー初セーブを記録した。
ただし、9回が千賀のものになったわけではない。8月の5登板のうち、9回に投げたのは4試合で、8月6日は7回の登板だった。 ウィリアムズがまだ投げられた8月4日にも千賀は9回に上がっているし、17日のパドレス戦を締めたのはドゥアルテである。メッツはいま複数の投手で最終回を回している。千賀の3セーブは、3度の機会を3度とも成功させた結果であって、固定された役割の産物ではない。
20年で7人、そのうちセーブを持っていたのは1人
「0勝8敗」がどれくらい珍しいのかも、調べておく価値がある。
2026年のMLBで登板した800人あまりのうち、勝ち星ゼロで6敗以上を喫しているのは千賀(0勝8敗)と、レッズ・レンジャーズ・マーリンズと渡り歩いたクリス・パダック(0勝7敗)の2人だけ。8敗以上に絞れば千賀ひとりである。
過去にさかのぼると、2006年から2025年までの20年間で「0勝8敗以上」に到達したのは7人。そのうちセーブを記録していたのは、2009年のブラッド・リッジ(0勝8敗31セーブ、防御率7.21)ただひとりだった。
ただしリッジの数字は、前年に41回のセーブ機会を41回とも締めてフィリーズを世界一に導いた守護神が、翌年に崩れた末のものである。その2009年は42機会で31セーブ、11度のセーブ失敗。千賀は逆をたどっている。先発として崩れた投手が、シーズン終盤に9回へ回ってきた。同じ「0勝8敗+セーブ」でも、向きが正反対だ。
勝ち星は、たぶんこのまま増えない
9回を締める投手に勝ち星がつく道は、ほとんど残っていない。セーブを積むほど、勝ち星からは遠ざかる。
メッツは57勝69敗。地区5位で17.5ゲーム差、ワイルドカードでも10ゲーム差をつけられたまま、残り36試合を戦う。千賀の0勝は、このまま動かない可能性が高い。
それでも、この5試合で見えたものは小さくない。球速は落ちていない。フォークは相変わらず空を切らせている。球種を2つに絞ってからの千賀は、少なくとも別の投手のように見える。
この形が今季だけの話で終わるのか、それとも来季の姿になるのか。判断するには、75球はあまりに少ない。
この記事の数字について
- 出典はMLB公式のStats APIとBaseball Savant。千賀の成績と1球データは2026年8月16日(現地時間)の登板終了時点、メッツの順位とブルペン状況、および他投手との比較は8月17日終了時点で取得した。シーズン進行中のため変動する
- 8月16日のナショナルズ戦は、メッツが4-3とリードした9回表に千賀が登板。ビバスを一ゴロに打ち取り、テナとフォードを空振り三振。11球で3者凡退
- 役割別の成績は、ゲームログの1試合ごとの数値から当サイトが再集計した。「先発」は3月31日・4月5日・11日・17日・26日・6月16日・23日・7月31日の8試合、「2イニング以上の救援」は6月28日・7月3日・7月7日の3試合、「1イニング前後の救援」は7月10日・18日・8月4日・6日・10日・14日・16日の7試合。3区分の合計は18登板49回2/3・自責点43で、公式のシーズン成績(防御率7.79)と一致する
- 8敗の内訳は先発時7敗、6月28日のロングリリーフで1敗。公式のスプリット成績でも先発0勝7敗・救援0勝1敗で一致する。7月31日は4回3失点で敗戦投手
- 4月26日から6月16日まで51日間の登板間隔がある。その理由はデータからは分からないため、本文では期間の存在のみを記した。復帰後は6月16日・23日と先発し、6月28日からロングリリーフに回っている
- 「8月の5登板」は8月4日・6日・10日・14日・16日。5イニング・被安打1・7奪三振・2四球・無失点。セーブがついたのは10日・14日・16日の3試合で、4日は4点差の9回、6日は7点リードの7回の登板だった
- 球種構成・球速・空振り率は、Statcastが球種を判別できた投球を分母にしている。先発8試合は596球、8月の5登板は75球。母数の差が大きく、8月の数字は動きやすい
- 8月の最速161.4キロ(100.3マイル)はフォーシームで、5登板中の最高値。平均ではない。先発期間の最速は160.1キロ。球速はStatcastの原データ(マイル)をメートル法に換算した
- 空振り率はスイングに対する空振りの割合。ファウルはスイングに含み、空振りには含まない。8月の内訳は全体9/35、フォーク8/12、フォーシーム1/22。先発8試合は全体80/271、フォーク22/51、フォーシーム25/111
- 全体の空振り率が下がった主因はフォーシーム単体の低下(22.5%→4.5%)で、球種構成の変化による寄与はほぼゼロだった(先発時の球種別空振り率を8月の構成に当てはめると29.8%で、実測の29.5%とほぼ変わらない)。ただしフォーシームの4.5%は22スイング中1球であり、この母数で結論は出せない
- 「ゾーンに投げた割合」はStatcastのゾーン区分1〜9に入った投球の割合。ストライク率は判定ストライク・空振り・ファウル・インプレーを合わせた割合
- 9イニングあたり与四球は、先発が31回2/3で24個、8月の5登板が5回で2個から算出した
- 8月の5登板で奪った7三振の決め球は、1球ごとのプレーバイプレーで確認した。7つすべてが空振り三振
- デビン・ウィリアムズの負傷者リスト入りは8月10日発表、8月8日に遡及。MLB公式の発表は右肩の故障(right shoulder strain)。今季16セーブ(19機会)、防御率4.66。8月4日はこの発表より前で、9回の起用がウィリアムズの離脱だけによるものとは、データからは言えない
- 「登板した800人あまり」は2026年に1試合以上登板した選手の数。8月17日終了時点で806人だが、野手の登板も含まれるため概数で記した
- クリス・パダックの2026年はレッズ6試合(0勝2敗)、レンジャーズ1試合(0勝0敗)、マーリンズ7試合(0勝5敗)。7敗の内訳はレッズ2敗・マーリンズ5敗
- 過去の「0勝8敗以上」の調査範囲は2006年から2025年のレギュラーシーズン。該当は7人で、ラス・オーティズ(2006)、ブラッド・リッジ(2009)、ケビン・スローウィ(2011)、フィリップ・ハンバー(2013)、タイラー・クレイビー(2015)、パオロ・エスピノ(2022年0勝9敗)、マイケル・ソロカ(2024年0勝10敗)。それ以前の年は調べていない。リッジの2008年は41セーブ機会を41回とも成功(防御率1.95)、2009年は42機会で31セーブ・11セーブ失敗(防御率7.21)
- メッツの順位・ゲーム差は2026年8月17日終了時点(57勝69敗、126試合消化)
- 「球種を絞ったから抑えている」は当サイトの推論である。球種構成・ストライク率・与四球の変化はデータに出ているが、起用法の意図や本人の取り組みはデータからは分からない。1イニング限定になったことと球種を絞ったことのどちらがより効いているかも、この母数では切り分けられない
