2026年8月3日(日本時間4日)、ヒューストン・アストロズの今井達也がブルージェイズ戦に2番手で登板した。渡米後初のリリーフ登板である。
内容はこうだった。
| 回 | 打者 | 結果 | 球数 |
|---|---|---|---|
| 7回 | アーニー・クレメント | 飛球 | 3 |
| 7回 | アンドレス・ヒメネス | 飛球 | 7 |
| 7回 | マイルズ・ストロー | 飛球 | 2 |
| 8回 | ネイサン・ルークス | ゴロ | 2 |
| 8回 | ウラジミール・ゲレーロJr. | 三振 | 6 |
| 8回 | 岡本和真 | 三振 | 4 |
| 9回 | ジョージ・スプリンガー | 三振 | 4 |
| 9回 | アレハンドロ・カーク | 三振 | 8 |
| 9回 | ヘスス・サンチェス | 三振 | 4 |
3回・打者9人・被安打0・与四球0・5奪三振・34球。 最後の5人はすべて三振で、そこには岡本和真も含まれている。
先発したクリスチャン・ハビアーが6回を投げ、今井が残る3回を投げ切った。アストロズはこの日、2人だけで試合を終えている。
この登板が驚きなのは、内容そのものより、投げた本人が「1イニングあたりで見て、MLBで最も四球を出す投手」だからだ。
2026年、四球ワースト1位
2026年に50イニング以上を投げたMLBの投手は212人いる。その中で、9イニングあたりの与四球(BB/9)が最も多いのは今井達也だ。
| 順位 | 投手 | BB/9 | 投球回 | 登板/先発 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 今井達也(HOU) | 5.84 | 61.2 | 16/15 |
| 2 | JR・リッチー | 5.59 | 58.0 | 14/8 |
| 3 | ライアン・ゼファージョン | 5.57 | 51.2 | 45/0 |
| 4 | ルインダー・アビラ | 5.40 | 70.0 | 21/12 |
| 4 | ジェイコブ・ロペス | 5.40 | 70.0 | 17/14 |
| 6 | ヨハン・ラミレス | 5.31 | 61.0 | 47/1 |
MLB全体のBB/9は3.42。今井はその1.71倍を出している。
ところが、同じ212人の中でK/9(奪三振率)を見ると、順位はこうなる。
| 順位 | 投手 | K/9 |
|---|---|---|
| 1 | ジェイコブ・ミシオロフスキー | 13.82 |
| 2 | ディラン・シース | 13.12 |
| 3 | ライアン・ゼファージョン | 13.06 |
| 4 | ケイド・スミス | 12.45 |
| 5 | アーロン・アシュビー | 12.35 |
| … | ||
| 10 | 今井達也 | 11.24 |
四球はワースト1位、三振は10位。 212人中の上位5%だ。
打者ベースで見ても同じことが起きている。
| 今井達也 | MLB平均 | |
|---|---|---|
| K%(三振を奪う割合) | 28.1% | 22.1% |
| BB%(四球を出す割合) | 14.6% | 8.9% |
| K-BB% | 13.5% | 13.2% |
三振は平均を6.0ポイント上回り、四球は5.7ポイント上回る。両方を極端に振り切った結果、差し引きはほぼMLB平均という奇妙な投手が出来上がっている。
「K/9 10以上かつBB/9 5以上」という条件を212人にかけると、該当するのは3人しかいない。今井、ゼファージョン(13.06/5.57)、ラミレス(10.33/5.31)。残る209人は、どちらか一方に振り切れていない。 そして今井以外の2人は、いずれも先発ではなくリリーフである。
歴史上、この型の代表格はノーラン・ライアンだろう。通算5,386回で2,795四球(BB/9 4.67)、5,714奪三振(K/9 9.55)、防御率3.19で324勝292敗。三振も四球もMLB歴代最多という投手が、通算では平均を上回る成績を残している。この型が成立しないわけではない。 ただし、成立させるには条件がある。
条件はストライク率だった
今井の2026年の15先発を、その試合のストライク率で3つに分けてみる。
| ストライク率 | 先発 | 投球回 | 1先発あたり | 防御率 | BB/9 | K/9 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 60%以上 | 6 | 31.0 | 5.17回 | 2.90 | 2.90 | 13.35 |
| 50〜60% | 5 | 22.2 | 4.53回 | 5.56 | 5.16 | 7.54 |
| 50%未満 | 4 | 5.0 | 1.25回 | 25.20 | 30.60 | 12.60 |
同じ投手の同じシーズンとは思えない開きがある。
ストライク率60%以上の6先発では、防御率2.90・K/9 13.35・BB/9 2.90。 これはサイ・ヤング賞候補の成績だ。1先発5.17回と長さも出ている。
ストライク率50%未満の4先発では、防御率25.20・BB/9 30.60。 4試合を合計しても5イニングしか投げられていない。3月29日のデビュー戦(2回⅔)、4月10日(0回⅓)、7月1日(1回⅓)、7月27日(0回⅔)である。
比較の基準を置いておく。2026年のMLB全体のストライク率は63.8%。今井の先発時通年は58.4%で、5.4ポイント足りない。つまり彼は「MLB平均のストライクを投げられた日はエース、投げられなかった日は1イニングも持たない」という投手だった。
四球3個以上の先発が15試合中10試合、5回未満での降板が8試合、2回未満のKOが4試合。安定という言葉から最も遠い1年目である。
なお今井は4月13日に右腕の疲労で15日間の負傷者リスト入り(4月12日に遡及)し、マイナーでのリハビリ登板を経て5月12日に復帰している。約1か月の空白があった。
34球で何が変わったのか──変わらなかったもののほうが多い
ではリリーフ登板の34球で、今井は何を変えたのか。まず変わったものは1つだけだ。
| 先発時(15試合) | 8/3リリーフ | |
|---|---|---|
| ストライク率 | 58.4% | 76.5% |
| 1アウトあたりの球数 | 6.54球 | 3.78球 |
34球中26球がストライク。MLB平均の63.8%を12.7ポイント上回っている。1アウトを取るのに要した球数は、先発時の58%で済んだ。
一方で、変わらなかったものを並べるほうが重要だ。
| 先発時 | 8/3リリーフ | |
|---|---|---|
| 4シームの平均球速 | 94.9マイル(152.7km/h) | 94.9マイル(152.7km/h) |
| 4シームの最速 | 98.3マイル(158.2km/h) | 97.1マイル(156.3km/h) |
| 主要2球種の割合 | 88.1% | 100% |
球速は0.1マイルも上がっていない。 短いイニングに絞って腕を振れたから速くなった、という説明は、少なくともこの登板では成り立たない。
球種構成も同じだ。リリーフではスライダー18球・4シーム16球の2球種しか投げなかったが、先発時もすでに実質2球種だった。
| 球種 | 先発時の球数 | 割合 |
|---|---|---|
| スライダー | 522 | 45.4% |
| 4シーム | 492 | 42.7% |
| シンカー | 61 | 5.3% |
| スプリット | 42 | 3.6% |
| チェンジアップ | 28 | 2.4% |
| カーブ | 6 | 0.5% |
上位2球種で88.1%。「球種を絞ったから良くなった」という説明も、数字の上では支えを持たない。 絞る前から絞れていた。
残るのは、ストライク率だけが動いたという事実である。
「リリーフに回れば四球は減る」は本当か
短いイニングなら制球が安定する、というのは直感的にもっともらしい。だが2026年のMLB全体を見ると、そうはなっていない。
| 人数 | 投球回 | BB/9 | K/9 | 防御率 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 先発型 | 227 | 17,257 | 3.14 | 8.37 | 4.17 |
| 救援型 | 550 | 12,888 | 3.80 | 8.67 | 4.22 |
救援型のほうが、9イニングあたり0.66個多く四球を出している。
理由は難しくない。ブルペンには「三振は取れるが制球に難がある」タイプが集まりやすいからだ。先に挙げた「K/9 10以上・BB/9 5以上」の3人のうち、今井以外の2人(ゼファージョン45登板0先発、ラミレス47登板1先発)はどちらもリリーフとして起用されながら、四球ワースト上位に居続けている。リリーフだから四球が減る、という関係はそこにない。
つまり、ブルペン転向そのものは四球への処方箋ではない。 今井の34球は、四球癖が治った証拠ではなく、ストライク率が高かった1試合というだけかもしれない。
実際、先発でもストライク率が60%を超えた日は防御率2.90・BB/9 2.90を記録している。76.5%という数字が9人の打者を相手にしたときだけのものなのか、それとも役割が変わって定着するものなのか──34球では判別できない。
判断するには次の数登板が要る。それが正直なところだ。
それでもアストロズが動いた理由
配置換えが報じられたのは7月31日(日本時間8月1日)。今井の7月の4先発は11回⅔で10自責点、防御率7.71に沈んでいた。
アストロズは1月2日、ポスティングでの移籍となる今井と3年5,400万ドル(出来高込みで最大6,300万ドル、オプトアウト付き)で契約した。年俸としてはポスティング移籍の投手で史上3番目の高額とされる。その1年目の8月に、先発ローテーションから外れたことになる。
ただし球団の事情も見ておく必要がある。アストロズは8月4日時点で58勝56敗、ア・リーグ西地区首位。ポストシーズンが射程に入っているチームが、防御率5.83(先発時のみ。無失点だったリリーフ3回を含む通年では5.55)の先発枠を抱え続ける余裕はない。
そして数字は、今井の実力がこの防御率より上であることを示している。
| 今井達也 | |
|---|---|
| 防御率 | 5.55 |
| FIP(運と守備を除いた実力防御率) | 4.69 |
FIPは被本塁打・与四球・死球・奪三振だけから算出する指標で、平均は約4.00。今井のFIP 4.69は防御率5.55より0.86低い。 平均を下回ってはいるが、失点ほどには内容が悪くない、という読み方になる。
三振を奪う力は上位5%。それを封じているのが四球一点だとすれば、修正できたときの伸びしろは大きい。3回パーフェクトが評価されたのは、結果ではなく34球で9アウトを取れた効率のほうだろう。
まとめ
- 今井達也は2026年、50イニング以上のMLB212投手中でBB/9 5.84のワースト1位。同時にK/9 11.24で10位
- 「K/9 10以上・BB/9 5以上」を満たすのは全MLBで3人だけ。極端に振り切れた投手である
- 結果を決めているのはストライク率。60%以上の6先発は防御率2.90、50%未満の4先発は防御率25.20
- MLB全体のストライク率は63.8%。今井の先発時は58.4%で5.4ポイント足りない
- 8月3日の初リリーフはストライク率76.5%。ただし球速(94.9マイル)も球種構成も先発時と変わっていない
- MLB全体では救援型のほうがBB/9は高い(3.80対3.14)。ブルペン転向は四球の解決策ではない
- したがって34球1登板では何も証明されない。判断は次の数登板を待つ必要がある
強い球を持ちながら勝てない投手を見たとき、球速や球種を疑いたくなる。だが今井の場合、そこは1年目からすでに整っていた。動いていなかったのは、ストライクゾーンに入った球の割合という、たった1つの数字だ。
この記事の数字について
- 選手成績・球種・球速・投球結果:MLB Stats API(2026年8月5日時点・シーズン進行中)
- BB/9・K/9のMLB順位:2026年に150アウト(50イニング)以上を記録した212投手を対象に、当サイトが算出。当日の試合が進行中のため順位・数値は変動する
- 「先発型・救援型」の分類:先発登板数が総登板数の半分以上かどうかで当サイトが分類したもの。MLB公式の区分ではない
- FIP:MLB公式の集計項目ではないため、当サイトが被本塁打・与四球・死球・奪三振から算出(定数3.15の簡易式)
- ストライク率別の集計:各試合のボックススコアのストライク数÷投球数で3群に分け、当サイトが集計
- 契約内容(3年5,400万ドル・最大6,300万ドル・オプトアウト)およびブルペン配置換えの報道:時事通信、Full-Count(2026年8月1日)
- 負傷者リスト入り・復帰:MLB Stats API のトランザクション記録
- ノーラン・ライアンの通算成績:MLB Stats API
