2026年8月4日時点で、MLBの勝利数ランキングに日本人投手が2人並んでいる。山本由伸(ドジャース)と菅野智之(ロッキーズ)が、ともに11勝でMLB全体8位タイ。日本人としては今季トップタイの数字だ。
だが2人の中身は、ほとんど正反対と言っていい。
| 山本由伸(LAD) | 菅野智之(COL) | |
|---|---|---|
| 勝敗 | 11勝7敗 | 11勝4敗 |
| 防御率 | 2.76 | 4.47 |
| WHIP | 0.88 | 1.26 |
| 投球回 | 133回⅔ | 102回⅔ |
| 奪三振 | 121 | 58 |
| 奪三振率(K/9) | 8.15 | 5.08 |
| 被本塁打率(HR/9) | 1.01 | 1.84 |
防御率で1.71、奪三振で63個の差がある。それでも勝ち星は同じ11で、しかも負けは菅野のほうが3つ少ない。
この「ねじれ」を説明する数字が、援護率だ。
援護率の計算式
援護率(Run Support、RS/9)は、その投手が登板した試合で、味方の打線が9イニングあたり何点取ってくれたかを表す。
援護率 =(登板した試合でチームが挙げた総得点 ÷ その試合の投球回)× 9
防御率とちょうど裏返しの構造をしている。防御率が「9回投げたら何点取られるか」なら、援護率は「9回投げる間に何点もらえるか」だ。この2つを並べれば、その投手が勝ちやすい環境にいるかどうかが見える。
目安になるのはMLB全体の平均だ。2026年は8月4日時点で30球団が合計15,197得点/3,380試合、つまり1試合あたり4.50点。援護率がこれを大きく上回っていれば「恵まれている」、下回っていれば「見放されている」ということになる。
なお援護率はMLB公式の集計項目ではない。当サイトでは選手ページの投球成績に独自算出して掲載している。
2026年、菅野10.34・山本6.53
2人の援護率はこうなる。
| 山本由伸 | 菅野智之 | |
|---|---|---|
| 援護率 | 6.53 | 10.34 |
| 先発した試合の総得点 | 97点 | 118点 |
| 先発 | 20 | 19 |
菅野の10.34は、山本の6.53の1.58倍。MLB平均の4.50と比べれば、菅野は2.3倍の点をもらいながら投げていることになる。
ここまでは「ロッキーズは打つチームだから」で説明がつきそうに見える。標高約1,600mのクアーズ・フィールドを本拠地に持つコロラドは、打者有利の球場として知られている。
だが、そうではない。
差の正体は、チームの得点力ではない
2026年の1試合あたり得点を並べると、こうなる。
| チーム | 総得点 | 試合 | 1試合あたり |
|---|---|---|---|
| ドジャース | 577 | 113 | 5.11 |
| ロッキーズ | 547 | 113 | 4.84 |
| (MLB平均) | 15,197 | 3,380 | 4.50 |
山本の所属するドジャースのほうが、菅野のロッキーズより1試合あたり0.27点多く取っている。 チーム全体の得点力で言えば、恵まれているのは山本のほうだ。
それでも援護率が1.58倍ひらく。分解すると、理由は2つの掛け算だった。
① 1先発あたりの得点
| 山本 | 菅野 | |
|---|---|---|
| 1先発あたりのチーム得点 | 4.85点 | 6.21点 |
| 所属チームの平均(1試合) | 5.11点 | 4.84点 |
| 差 | −0.26 | +1.37 |
菅野が投げた日、ロッキーズはチーム平均より1.37点多く取っている。山本が投げた日、ドジャースは平均より0.26点少ない。どちらも本人にはどうにもできない話だが、この時点で1.28倍の差がつく。
② 1先発あたりの投球回
| 山本 | 菅野 | |
|---|---|---|
| 1先発あたりの投球回 | 6.68回 | 5.40回 |
援護率は投球回で割る指標なので、同じ得点をもらっても、早く降りた投手のほうが数字は大きく出る。山本は菅野より1先発あたり1.28回長く投げている。ここで1.24倍。
そして──
1.2805(得点の比) × 1.2369(投球回の比) = 1.5838
援護率の比 10.34 ÷ 6.53 = 1.5838
小数第4位まで一致する。援護率の差は、「打線の当たり日を引いたかどうか」と「自分がどれだけ長く投げたか」の積でできていた。チームの地力はほとんど関係していない。
7回1失点の敗戦投手と、5回6失点の勝利投手
抽象的な比率より、実際の試合を2つ並べたほうが早い。
2026年5月18日・パドレス戦(山本由伸) 7回1失点8奪三振。ドジャース打線は0点。試合は0対1で敗戦。山本に敗戦投手がついた。
2026年6月14日・アスレチックス戦(菅野智之) 5回6失点。ロッキーズ打線は23点を取った。従来の球団記録20点を更新する、球団史上最多得点である。試合は23対9で快勝し、菅野に勝利投手がついた。
7回を1失点に抑えた投手が負け、5回で6点を失った投手が勝つ。これが「勝利数」という指標の実態だ。
シーズン全体で見ても構造は同じで、菅野が勝った11試合の平均援護は7.91点、負けた4試合の平均援護は1.00点(4試合合計でわずか4点)。山本も勝った11試合は7.27点、負けた7試合は1.43点。2人とも「点をもらった日に勝ち、もらえなかった日に負けて」いる。違うのは、その日が何回訪れたかだけだ。
では、実力の差はどこに出るのか
味方の得点を取り除いた指標を並べると、印象は一変する。
| 山本由伸 | 菅野智之 | |
|---|---|---|
| FIP(運を除いた実力防御率) | 3.52 | 5.44 |
| fWAR | +2.3 | +0.4 |
| K%(三振を奪う割合) | 23.8% | 13.5% |
| BB%(四球を出す割合) | 5.7% | 5.6% |
| K-BB% | 18.1% | 7.9% |
FIPは被本塁打・与四球・奪三振だけから算出する「守備と運を除いた防御率」で、平均は約4.00(当サイトの簡易式による算出)。山本の3.52は平均を上回り、菅野の5.44は大きく下回る。FanGraphs算出のfWARでは+2.3対+0.4で、約1.9勝分の開きがある。
一方で見落とすべきでないのは、四球を出さない能力では菅野が山本と互角だという点だ。BB%は5.6%対5.7%、BB/9は2.10対1.95。36歳・MLB2年目の菅野は、三振こそ取れない(K%13.5%はMLB平均の約22%を大きく下回る)が、走者をタダで出さないという一点では一線級を保っている。7月は3先発で防御率2.95、6月以降は7連勝と、内容自体も上向いていた。
菅野は8月3日(日本時間4日午前7時)のトレード期限をロッキーズ残留のまま越えた。ポストシーズンを狙う複数球団が獲得候補に挙げていたが、交渉はまとまらなかった。11勝という数字が市場で額面通りに評価されなかったのは、各球団のフロントが援護率とFIPを見ていたから、という言い方もできる。
援護率を見るときの落とし穴
最後に注意点を1つ。援護率は投球回で割るため、早く降りる投手ほど数字が跳ね上がる。
実は、菅野より援護率が高い日本人先発投手がいる。今井達也(アストロズ)の13.86だ。ところが、
| 今井達也 | 菅野智之 | |
|---|---|---|
| 援護率 | 13.86 | 10.34 |
| 1登板あたりのチーム得点 | 5.94点 | 6.21点 |
| 1登板あたりの投球回 | 3.85回 | 5.40回 |
1試合あたりでもらっている点は、今井のほうが菅野より少ない。 今井の援護率が高いのは、1登板3.85回で降りているからにすぎない。今季15先発のうち6試合で4回未満に終わっており(最短は0回⅓)、分母が小さいまま分子だけが試合終了までの得点を数えるので、数字が膨らむ。
そして公平のために書いておくと、菅野の10.34にも同じ効果が働いている。1先発5.40回は長いとは言えず、先に挙げた23得点の試合でも彼は5回で降りている。降板後に入った点も分子に含まれる以上、この数字も「もらった点の多さ」だけを表しているわけではない。
援護率を投手同士で比べるときは、投球回の長さをセットで見る必要がある。単独で「もらっている/もらっていない」を断じられる指標ではない。
まとめ
- 援護率=(登板試合のチーム総得点 ÷ 投球回)× 9。2026年のMLB平均は1試合4.50点
- 山本由伸6.53、菅野智之10.34。同じ11勝でも、もらっている点は1.58倍違う
- その差はチームの得点力ではなく、「打線の当たり日を引いたか」×「自分が長く投げたか」の積
- 実力を測るならFIP(3.52対5.44)とfWAR(+2.3対+0.4)を見る
- 援護率は投球回で割るため、早く降りる投手ほど高く出る。今井達也の13.86がその典型
勝利数は100年以上使われてきた指標だが、投手個人の成績というより「投手と打線と継投の合作」に近い。11という同じ数字の裏側に何があったかは、援護率をひとつ挟むだけでかなり見えてくる。
この記事の数字について
- 選手成績・チーム得点・試合結果:MLB Stats API(2026年8月4日時点・シーズン進行中)
- fWAR:FanGraphs
- 援護率・FIP:MLB公式の集計項目ではないため、当サイトがゲームログとスケジュールから独自に算出(FIPは被本塁打・与四球・奪三振のみを使う簡易式)
- ロッキーズの23得点は従来の球団記録20点を更新したもの(2026年6月14日・対アスレチックス/ラスベガス開催)
