防御率が同じ2.50の投手が2人いたとする。片方は毎回のように走者を出しながら、要所を締めて0点に抑えるタイプ。もう片方はそもそも走者をほとんど出さない。この2人は「同じ投手」だろうか。
防御率という指標だけを見ていると、この違いは消えてしまう。WHIP(ウィップ)は、まさにこの差を測るための指標だ。
WHIPの計算式と、数字の目安
WHIPは Walks and Hits per Inning Pitched の頭文字で、日本語にすれば「1イニングあたりの被安打+与四球」。計算式は単純だ。
WHIP =(被安打 + 与四球)÷ 投球回
WHIPが1.00なら「1イニングあたり平均1人の走者を出している」ことを意味する。9回を投げれば9人。この数字が小さいほど、走者を背負う場面が少ない=失点のリスクが構造的に低い投手ということになる。
目安はこうだ。1.00を切ればエース級、1.10前後で一線級、1.30を超えるとリーグ平均を下回る。防御率と違って「0点に抑えた」という結果ではなく、そこに至るまでの過程を測っている点が重要になる。
注意したいのは、WHIPに死球とエラーによる出塁は含まれないこと。純粋に「投手自身が許した安打と四球」だけを数えるので、味方の守備の良し悪しがある程度は入り込むものの(打球が安打になるかアウトになるかは守備範囲に左右される)、防御率よりは投手個人の責任に近い数字になる。
2026年のMLBランキング──山本由伸がMLB2位
2026年シーズンのMLB全体(規定投球回到達者)のWHIPランキング上位は次の通り。
| 順位 | 選手 | WHIP |
|---|---|---|
| 1 | ジェイコブ・ミシオロフスキー | 0.75 |
| 2 | 山本由伸 | 0.90 |
| 3 | カム・シュリトラー | 0.93 |
| 4 | ドリュー・ラスムッセン | 0.93 |
| 5 | ローガン・ギルバート | 0.99 |
1位のミシオロフスキー(ブルワーズ)の0.75という数字は異常値に近い。9イニング投げて走者が7人以下という計算で、これは「毎回三者凡退に近い内容を続けている」ことを意味する。
そして2位に山本由伸の0.90が入っている。1イニングあたりの走者が1人を切るというのは、先発投手として最上位クラスの水準だ。日本人投手ではさらに16位に今永昇太の1.10が入っており、2人が上位に食い込んでいる。
山本由伸の数字が示す「もう一つの支配の仕方」
ここで面白いのは、山本を別の指標で見たときだ。奪三振率(K/9)では山本は33位の8.45。今永は34位の8.40で、ほぼ並んでいる。K/9のトップはWHIPと同じミシオロフスキーの13.88で、山本とは5点以上の差がある。
つまり山本由伸は、三振を量産しているわけではないのに、走者を出さないという一点でMLB2位に立っている。
これは投手としての支配の仕方が違う、ということだ。三振でアウトを積み上げるタイプは、バットに当てさせないことで走者を防ぐ。一方で山本のようなタイプは、打たせて取りながら、その打球を安打にさせない――正確に言えば、四球を出さず、痛打を浴びない。同じ「走者を出さない」という結果に、まったく別の経路でたどり着いている。
ミシオロフスキーがWHIP・K/9の両方でトップに立っているのと対照的に、この2人の並びは「投手の良さは1つの指標では測れない」ことをそのまま示している。防御率だけを見て「今年の山本は良い」と言うより、WHIPとK/9を並べたほうが、彼が何をしているのかがはるかに解像度高く見えてくる。
WHIPを見るときの注意点
万能な指標ではない。3点だけ補足しておく。
① 球場と守備の影響を受ける。打球が安打になるかどうかは、球場の広さと野手の守備範囲に左右される。守備の良いチームの投手はWHIPが下がりやすい。
② 被本塁打が反映されない。ソロ本塁打1本も、単打1本も、WHIP上は同じ「被安打1」として扱われる。失点への影響はまったく違うのに、である。だからWHIPが良くても防御率が悪い投手は存在しうる。
③ 救援投手とは単純比較できない。短いイニングを全力で投げる救援投手は、先発より数字が良く出やすい。比べるなら同じ役割同士で。
こうした限界を踏まえたうえで、それでもWHIPは「防御率の裏で何が起きているか」を知るための、最も手軽で有効な入口であり続けている。
2026年のWHIPランキング(MLB全体・毎日更新)→ 山本由伸の成績・球種データ → 今永昇太の成績・球種データ →
※数字はすべて MLB Stats API の実データ(2026年シーズン進行中・規定投球回到達者が対象)。