8月28日、アトランタのトゥルイスト・パーク。ロッキーズの菅野智之は4回を投げて10安打6失点、5回のマウンドに上がることなく降板した。チームは4対6で敗れている。
その前日、同じ球場で同じブレーブス打線と向き合っていたのが山本由伸だった。6回1/3を4安打1失点、8奪三振。与えた四球は1つだけ。文句のつけようがない投球である。それでも山本には敗戦が付いた。ドジャース打線が0点に終わったからだ。
当サイトは8月4日、この2人を並べた記事を書いている。菅野が11勝4敗、山本が11勝7敗。同じ11勝でももらっている点がまるで違うという話で、菅野については「6月以降は7連勝と、内容自体も上向いていた」とも書いた。
その翌日から、菅野は1勝4敗である。そして8月28日、2人は同じところに並んだ。どちらも12勝8敗。
追いついたのではない。止まったのだ
8月5日以降の2人を並べると、何が起きたかは一目でわかる。
| 菅野(8/5以降) | 山本(8/5以降) | |
|---|---|---|
| 登板 | 5先発 | 4先発 |
| 勝敗 | 1勝4敗 | 1勝1敗 |
| 投球回 | 23回 | 24回1/3 |
| 防御率 | 8.61 | 1.48 |
| 被安打 | 37 | 16 |
| 1試合の援護点 | 2.80点 | 2.50点 |
山本が追い上げたわけではない。この3週間半、山本も1勝しかしていない。菅野が4敗を積んで止まっている間に、勝敗の差が消えただけである。
そして注目すべきは、いちばん下の行だ。援護点、つまりその投手が先発した試合でチームが挙げた総得点は、8月4日の時点で菅野6.21点、山本4.85点。菅野のほうが1試合あたり1.36点も多くもらっていた。それが8月5日以降は2.80点と2.50点。落ちた幅は同じではない(菅野が3.41点、山本が2.35点)が、落ちた先はほとんど同じ水準になった。菅野を押し上げていた1.36点のアドバンテージは、0.30点まで縮んでいる。
もらえる点が並んだあとに残ったもの
条件が近づいたところで、結果は正反対に振れた。
菅野は23回で37安打を浴びている。9イニングあたりに直すと14.5安打。8月4日までは9.2安打だったから、打たれるペースがおよそ1.6倍になった計算だ。防御率は4.47から8.61へ。
山本は逆だった。24回1/3で16安打、自責点はたった4つ。防御率は2.76から1.48へ改善している。対戦打者に占める三振の割合も23.8パーセントから32.7パーセントへ跳ね上がった。8月5日以降の山本は、明らかに一段ギアが上がっている。
それでも山本の白星は1つだけだった。5点をもらった8月21日は勝敗が付かず、0点だった8月27日には敗戦が付いている。ほとんど同じだけしか援護されない中で、片方は崩れ、片方はむしろ良くなった。 この3週間半の2人を分けたのは、打線ではなかった。
菅野の5先発
菅野の8月5日以降を1試合ずつ見ると、白星が1つ付いたこと自体が幸運に見えてくる。
| 日付 | 投球回 | 自責点 | 勝敗 | 味方の得点 |
|---|---|---|---|---|
| 8月5日 | 5回 | 3 | 敗 | 0点 |
| 8月11日 | 6回 | 2 | 勝 | 3点 |
| 8月17日 | 5回 | 6 | 敗 | 5点 |
| 8月23日 | 3回 | 5 | 敗 | 2点 |
| 8月28日 | 4回 | 6 | 敗 | 4点 |
直近3先発は12回で17自責点。5点をもらった8月17日でさえ落としている。最後の白星は8月11日まで遡り、その6回を最後に、5回、3回、4回。一度も6回のマウンドに立てていない。
球場のせいにもできない。今季24先発を通して見ると、菅野の防御率は本拠地クアーズ・フィールドで5.00、ビジターで5.46。被本塁打も本拠地11本に対してビジターは16本ある。標高およそ1580メートル、打球が飛ぶことで知られるあの球場より、外に出たときのほうが打たれている。
12勝という数字が、いま指しているもの
シーズン成績に戻る。菅野は12勝8敗で防御率5.23、山本は12勝8敗で防御率2.56。同じ24先発、同じ勝敗で、奪三振は75と153。年齢は36歳と28歳。
今季10勝以上を挙げた31人の投手のうち、防御率が4.50を超えているのは菅野ただ1人である。 2番目に悪いネイサン・イボルディが4.21だから、1.02の差がある。
一方でロッキーズは52勝84敗。30球団で最も勝てていないチームだ。そのわずかな勝ち星の23.1パーセントを、菅野1人が稼いでいる。今季8勝以上を挙げた投手の中でMLB1位の比率で、2位はレッズのチェイス・バーンズの21.9パーセント。ただし彼の防御率は2.77である。
山本のWHIP、1イニングあたりに背負う走者の数は0.89で、規定投球回に達した投手の中でMLB2位。防御率は8位。走者を出さないという一点でMLBのほぼ頂点にいる投手が、それでも8度、負け投手になっている。
8月4日、この2人の勝ち負けの差は「もらった点の多さ」でほぼ説明が付いた。3週間半後、もらえる点は2人ともほぼ同じ水準まで落ち、あとに残ったものだけが数字に出ている。ローテーション通りなら、ロッキーズの残り26試合で菅野に回ってくる先発はあと5回前後だ。
この記事の数字について
- 成績はすべて MLB Stats API から取得した2026年8月29日終了時点のもの。レギュラーシーズンのみを対象とし、ポストシーズンは含まない。
- 「8月5日以降」は、当サイトが援護率の記事を公開した8月4日の翌日以降に登板した試合を集計したもの。菅野が5先発、山本が4先発にあたる。母数が小さく、1試合の大量得点で動く数字であることには注意が必要である。
- 援護点は、その投手が先発した試合でチームが挙げた総得点であり、投手の降板後に入った点も含む。1試合あたりの数字は総得点を先発数で割った。8月4日の記事で使った「援護率」は同じ得点を投球回で割って9イニング換算した指標で、定義が異なる。
- 「チーム勝利に占める割合」は、今季8勝以上を挙げた投手を対象に、勝利数をチームの総勝利数で割ったもの。
- 菅野の本拠地・ビジター別成績は今季24先発の通算で、内訳は本拠地12先発63回、ビジター12先発62回2/3とほぼ同じ投球回である。
- 「10勝以上31人」は、2026年にメジャーで登板した投手831人から10勝以上を抽出したもの。WHIPと防御率の順位は規定投球回に達した54人の中での順位。
- 「チーム勝利に占める割合」は、シーズン途中に移籍した投手を在籍球団ごとに分けて計算した。MLB Stats APIのリーグ一覧は移籍選手を1行に集約し、成績は両球団の合算・球団名は最新の所属先を返すため、そのまま使うと「移籍前に挙げた勝利を移籍後のチームの勝利数で割る」ことになる。
- 対戦打者に占める三振の割合は、奪三振数を対戦打者数で割って算出した。
- クアーズ・フィールドの標高は5190フィートをメートルに換算した。
