8月23日、ホワイトソックス戦の9回裏。1対1の同点でマウンドに上がったメッツの千賀滉大は、先頭打者を三塁ゴロに仕留めたあと、2人目のトリスタン・ピーターズにセンターへ運ばれた。サヨナラ本塁打。これで今季0勝9敗になった。
同じ日、ロッキーズの菅野智之はガーディアンズ打線に3回9安打5失点で降板している。日本人先発が並んで打ち込まれた一日だった。
千賀は3年前、メッツの1年目に166回1/3を投げて防御率2.98。被本塁打は17本しかなかった。その男が今季は52回で13本を浴びている。
「日本人投手はMLBの球場で一発を食う」という話は昔からある。今季の数字は、たしかにその通りに見える。だが打球のデータを開くと、打たれ方は同じではなかった。
9イニングあたり1.40本という数字
2026年に投げた日本人投手9人の成績を合算すると、826回2/3で129本塁打。9イニングあたり1.40本になる。MLB全体は35006回1/3で4528本、9イニングあたり1.16本だから、日本人だけを取り出すと2割ほど多い。
個別に見ると、偏りはもっと極端である。
| 投手 | 投球回 | 被本塁打 | 被本塁打率 | MLB内の位置 |
|---|---|---|---|---|
| 千賀滉大 | 52回 | 13 | 2.25 | 50回以上269人中4位(悪い順) |
| 菅野智之 | 121回2/3 | 26 | 1.92 | 100回以上105人中6位(悪い順) |
| 今永昇太 | 145回1/3 | 30 | 1.86 | 同7位 |
| 佐々木朗希 | 116回 | 21 | 1.63 | 同13位 |
| 山本由伸 | 151回2/3 | 15 | 0.89 | 同75位 |
| 大谷翔平 | 85回2/3 | 4 | 0.42 | 50回以上269人中255位(悪い順) |
上の4人はMLB平均の1.4倍から1.9倍。下の2人は平均の8割にも届かず、大谷に至っては4割弱である。同じ「日本人投手」でこれだけ開く時点で、国籍の話ではないことがわかる。
過去を見ても同じである。黒田博樹はMLB7年で、最も多い2011年でも1.07。山本由伸の通算は0.78。一方で田中将大は1.36、菊池雄星は1.49だった。ボールや球場のせいなら、全員が同じ方向に動くはずである。
打たれ方は、2つに割れていた
Statcastは1球ごとに、打たれた打球の速度と角度を記録している。この2つの組み合わせが、統計上もっとも長打になりやすい領域に入った打球を「バレル」と呼ぶ。
打球を100個以上打たれた371投手を並べて、角度と速度、そしてバレル率で6人を見る。
| 投手 | 平均打球角度 | 角度が高い順 | 被打球速度 | バレル率 | バレル率が高い順 |
|---|---|---|---|---|---|
| 千賀滉大 | 19.2度 | 45位 | 144.5キロ | 12.1% | 12位 |
| 今永昇太 | 18.7度 | 55位 | 142.3キロ | 9.8% | 56位 |
| 菅野智之 | 15.2度 | 140位 | 146.3キロ | 13.0% | 5位 |
| 佐々木朗希 | 12.5度 | 229位 | 144.5キロ | 9.8% | 58位 |
| 大谷翔平 | 11.2度 | 275位 | 140.7キロ | 3.8% | 351位 |
| 山本由伸 | 9.2度 | 309位 | 141.1キロ | 6.3% | 264位 |
371投手の平均は、打球角度13.8度、被打球速度142.7キロ、バレル率7.6%である。
ここで型が割れる。今永は角度が高いのに、被打球の速度は平均を下回る。菅野は角度が今永より3度以上低いのに、バレル率は371人中5位。上げられているのか、強く打たれているのか。そして千賀は、この2つのどちらの側にも数字が振れている。
今永は、強く打たれずに30本浴びている
今永の被打球の平均速度は142.3キロ。371投手の平均142.7キロを、わずかに下回っている。152.9キロ以上の強い当たりの割合も35.5%で、こちらも371人の平均を下回る。強く打たれているわけではない。それでも30本を浴びた。
角度である。平均打球角度18.7度は371人中55位。フライになりやすい打たせ方をしている。
1球ごとのデータを見ると、投球そのものに手がかりがあった。今永のフォーシームは縦の変化量が45.1センチで、この6人の中でいちばん大きい。Statcastの縦の変化量は、重力だけで落ちる場合を基準に、どれだけ浮き上がったかを示す。値が大きいほど落ちにくい球である。
そして今永は、その球を高めに投げる。今季投げた全2328球のうち38.4%が、ストライクゾーンの上3分の1か、そこから上に外れたコースだった。6人の中で最も多く、2位の大谷(32.2%)を6ポイント上回る。フォーシームがホームベース上を通る平均の高さは90.6センチで、これも6人で最も高い。次は山本の81.7センチである。
落ちない球を、高い位置に。打者がボールの下をこすれば、打球は上がる。上がった打球の一部はスタンドまで届く。今永が浴びた30本のうち最も多いのは、そのフォーシームによる13本だった。
ただし、この13本は「フォーシームだけが狙い撃ちされている」という意味ではない。今永の投球の41.4%はフォーシームで、被弾に占める割合43.3%とほとんど変わらない。高めについても同じで、13本のうち高めのゾーンから出たのは8本だが、今永のフォーシームはもともと64.7%が高めに行く。
突出して打たれている一点があるのではなく、投球そのものが打球の角度を押し上げている。
一時的な不調では説明が付かない。MLB1年目の2024年は1.40だったが、2025年は1.93、2026年は1.86。2年続けて同じ水準にいる。
菅野は、いちばん高めを使わないのに強く打たれる
菅野は逆だった。ストライクゾーンの上3分の1か、そこから上に外れたコースに投げた割合は19.3%で、6人の中で最も低い。今永の半分である。高めを使わない投球をしている。
それでもバレル率13.0%は、371人のワースト5位に入る。被打球の平均速度146.3キロは6人で最も速く、152.9キロ以上の強い当たりが43.6%。371人の平均を5ポイント上回る。
飛距離にも出ている。浴びた本塁打の平均飛距離125.9メートルは6人で最も遠い。次に遠い今永でも121.9メートルである。ただし菅野の本拠地はクアーズ・フィールドで、飛距離だけは球場の条件と切り分けられない。菅野が強く打たれていることを示しているのは、打った瞬間に計測される速度とバレル率のほうである。
誰もが思いつくのは球速だろう。菅野のフォーシームは平均148.7キロで、佐々木や大谷の157キロ台より9キロ遅い。ゾーンの下でも力負けする、という説明は筋が通って見える。
だが、この6人でいちばん遅いフォーシームを投げているのは今永の147.4キロだ。その今永の被打球速度は142.3キロで平均を下回り、バレル率9.8%も菅野の13.0%には遠く届かない。球速の遅さが、そのまま強い当たりに直結するわけではない。
かわりに目につくのは、打たれた球種の散らばり方だった。菅野の26本はカッター7本、フォーシーム7本、スプリット5本、スライダー3本、スイーパー2本、シンカー1本、カーブ1本。最も多いカッターとフォーシームでも各7本で、全体の3割に届かない。ただしこれは、投球の球種構成そのものが割れていることの裏返しでもある。菅野のフォーシームは1992球のうち397球。今永の4割に対して、2割しかない。
とはいえ、これも菅野がなぜ強く打たれるのかの答えではない。原因が1つの球種の不調に還元できない形をしている、というだけだ。そして今年になって落ちたという話でもない。菅野は昨季も1.89で、今季の1.92とほとんど変わっていない。渡米した時点からこの水準にある。
佐々木も、菅野と同じ形で打たれている
佐々木の平均打球角度12.5度は371人中229位。ゴロとフライの比率も1.08で、上げられてはいない。今永型ではない。
だが152.9キロ以上の打球は43.9%あり、菅野の43.6%を上回って6人で最も多い。被打球の平均速度144.5キロも371人平均の142.7キロを超える。角度は抑えているのに、当たったときに強い。
ただし菅野と決定的に違うのは球速だ。佐々木のフォーシームは157.5キロで6人中2番目に速く、「球が遅いから力負けする」では、この21本は説明が付かない。
千賀は、どちらにも名前が出てくる
千賀の平均打球角度19.2度は6人でいちばん高く、371人中45位。バレル率12.1%も12位に入る。上げられていて、なおかつ強く打たれている。
ただし今永と同じ理由ではない。千賀が高めに投げた割合は29.1%。今永の38.4%より9ポイント以上低い。
球そのものも違う。フォーシームの縦の変化量は41.2センチで今永より約4センチ小さく、ホームベース上を通る高さは76.0センチ。今永より約15センチ低い位置を通している。それでも打球は上がった。ゴロとフライの比率0.63は、今永の0.66よりさらにフライ寄りである。高さでも変化量でも説明が付かない。
母数の話も添えておく。千賀の52回は6人で最も短く、打球140個の上にこの数字が乗っている。
山本と大谷は、そもそも打たれていない
山本の平均打球角度9.2度は371人中309位。低い打球を打たせている。バレル率6.3%も264位で、平均の7.6%を下回る。上げさせず、強くも打たせていない。
その理由を投球に求めたくなる。だが山本のフォーシームは縦の変化量41.0センチ、通す高さ81.7センチ。千賀の41.2センチ・76.0センチとほとんど変わらない。同じような球の通し方をして、片方は打球が上がらず、片方は6人でいちばん上がっている。
大谷はさらに極端だ。バレル率3.8%は371人中351位。85回2/3で浴びた本塁打は4本しかなく、その4本はすべてフォーシームだった。
同じ日本から来て、同じボールを握っている。それでも被本塁打率は0.42から2.25まで、5倍以上に散らばる。
決めているのは国籍ではない
千賀の2023年は0.92、2025年は0.95だった。それが今季は2.25である。今季は21試合中8試合の先発で4セーブを挙げ、投球回も52回にとどまった。それでも差は2倍を超える。
一発を浴びるかどうかは、日本から来たかどうかで決まってはいない。9人を束ねた1.40の中身は、投手ごとにばらばらだった。菅野と佐々木がなぜ強く打たれるのか、千賀がなぜ上げられるのかは、この記事のデータでは説明が付かなかった。山本と千賀は、球速も変化量もほとんど同じフォーシームを、6センチと違わない高さに通している。
2つの型は打たれ方の分類であって、原因の分類ではない。
この記事の数字について
- 出典はMLB公式のStats APIとBaseball Savant。2026年8月24日(現地時間)終了時点で取得した。シーズン進行中のため変動する
- 被本塁打率は9イニングあたりの被本塁打数(HR/9)。MLB全体の1.16本は2026年に投げた全投手の合計35006回1/3・4528本から算出した。救援投手を含む
- 日本人投手9人の合計は、山本由伸・佐々木朗希・今永昇太・千賀滉大・菊池雄星・松井裕樹・菅野智之・今井達也・大谷翔平のレギュラーシーズン成績を合算したもの。826回2/3で129本
- MLB内の順位は被本塁打率の高い順(悪い順)。母集団は投球回100以上の105人、または50以上の269人。千賀(52回)と大谷(85回2/3)は100回に届かないため、50回以上の母集団で比較している
- 打球データの母集団は、2026年に打球を100個以上打たれた371投手。平均打球角度13.8度、被打球平均速度142.7キロ、バレル率7.6%、152.9キロ以上の打球の割合38.4%はこの371人の平均であり、MLB全投手の平均ではない
- 「ゴロとフライの比率」はMLB公式のGO/AO(ゴロアウト数÷フライアウト数)。1を下回るほどフライ寄りになる。今永0.66、千賀0.63、菅野0.84、佐々木1.08、山本1.11。大谷は本記事では取得していないため、この比較から外している
- 「バレル」はStatcastの区分で、打球速度と角度の組み合わせが統計上もっとも長打になりやすい領域に入った打球を指す。バレル率は打球全体に占める割合
- 「152.9キロ以上」はStatcastの95マイル以上の区分を換算したもの
- 打球速度とバレル率は打った瞬間の計測値のため球場の影響を受けないが、本塁打の飛距離は受ける。本記事は球場別の内訳を出していないため、菅野の平均飛距離125.9メートルにクアーズ・フィールドがどれだけ効いているかは切り分けていない
- 「縦の変化量」はStatcastの
pfx_z。重力だけで落下した場合を基準に、そこからどれだけ浮き上がったかを示す。値が大きいほど落ちにくく、小さいほど素直に落ちる。落下量そのものではない - フォーシームの球速・縦の変化量・通過高さは、2026年に投げた1球ごとのデータの平均。オープン戦は除いている
- 「高めの割合」は、Statcastのゾーン区分で1〜3(ゾーンの上3分の1)または11・12(ゾーン上方の外れ)に入った投球の割合。球種を問わず全投球が分母
- 8月23日のホワイトソックス戦は、1対1の9回裏に千賀が無死から登板し、先頭のチェイス・メイドロスを三塁ゴロに打ち取ったあと、トリスタン・ピーターズに中堅へのソロ本塁打を浴びてサヨナラ負け。千賀に敗戦がつき、今季0勝9敗となった。打球方向はプレーバイプレーの記述による。同日の菅野はガーディアンズ戦に先発し、3回9安打5失点で降板している。この試合で菅野は本塁打を浴びていない
- 千賀は今季21試合に登板して先発は8試合。4セーブを記録している。2023年(166回1/3)と2025年(113回1/3)の登板形態は本記事では確認していない
- 被本塁打がどのコースから出たかは、Statcastのゾーン区分で判定した。今永のフォーシーム13本のうち8本がゾーン1〜3または11・12(高め)から。ただし今永のフォーシームは全体の64.7%が高めであり、被弾13本の高め率61.5%はそれを下回る。全30本で見ると高めゾーン発は10本。被弾したフォーシームの平均通過高さは87.1センチで、フォーシーム全体の90.6センチより低い
- 球種の割合は、今永が全2328球のうちフォーシーム963球(41.4%)、菅野が全1992球のうちフォーシーム397球(19.9%)。被弾に占めるフォーシームの割合は今永が30本中13本(43.3%)、菅野が26本中7本(26.9%)。総投球数はStats APIの値を採り、球種別の内訳はStatcastの1球ごとのデータから数えた。この2つは記録上わずかに食い違うことがある
- 球速・変化量・打球速度・飛距離は、Statcastの原データ(マイル・インチ・フィート)をメートル法に換算して表記した
- 「今永は落ちない球を高めに投げているからフライを打たれている」は当サイトの推論である。投球の高さ・変化量と打球の角度はデータに出ているが、因果関係まではデータからは特定できない。菅野・佐々木・千賀がそれぞれなぜその打たれ方をしているのかは、本記事のデータからは特定できていない
- 過去の投手の通算被本塁打率は、MLBレギュラーシーズンの通算成績から算出した。黒田博樹は7シーズン(2008〜2014年)で1319回・129本、通算0.88。田中将大は1054回1/3で159本、菊池雄星は1024回で170本
