カブスの伝説的スラッガー、サミー・ソーサが8月22日に口を開いた。米紙『California Post』に対し「ショウヘイ・オオタニは史上最高の選手の一人だ」と認めたうえで、こう続けている。「だが、今年のMVPはシカゴに来ると誰もが期待している」
ソーサは1998年に66本塁打を放ち、通算609本塁打を残した打者だ。1992年から13年間カブスでプレーした男が、古巣にMVPが来ることを期待した。今季そのカブスで候補と目されているのが、中堅手ピート・クロウ=アームストロングである。
大谷翔平にとっては、4年連続5度目のMVPがかかったシーズンである。だが総合貢献度を表すfWARで、いま先を行っているのはクロウ=アームストロングのほうだ。
大谷の7.06という数字は、打者として4.11、投手として2.95を足したものだ。対するクロウ=アームストロングは8.43。これは打者としての数字だけである。
大谷は投打を足してなお、相手の打撃だけに届いていない。 何がそこまでの差を生んだのか。分解すると、打撃で開いた分は3.2点しかなかった。残りは、打席の外でついている。
打撃の生産力は、ほぼ同じだった
まず、打撃の中身を並べる。
| 大谷翔平 | クロウ=アームストロング | |
|---|---|---|
| wRC+ | 152.3 | 154.2 |
| wOBA | .396 | .397 |
| 強い打球の割合 | 46.9% | 41.3% |
| 四球率 | 13.4% | 12.0% |
| 三振率 | 23.1% | 26.8% |
| 長打力(ISO) | .261 | .275 |
| 盗塁 | 8(失敗3) | 31(失敗7) |
リーグ平均を100として時代と球場を補正したwRC+は、152.3と154.2。ほぼ同じ数字だ。打球を強く叩けた割合では大谷が5.6ポイント上回り、四球を選ぶ率でも、三振を避ける率でも大谷が上にいた。
総合的な生産力では差がつかない。はっきり開いているのは盗塁である。
それでも、打者としての評価は半分
ところが打者としてのfWARを見ると、4.11対8.43。倍の開きがある。
fWARは「控え選手が同じ出場機会を与えられた場合と比べて、何点ぶん多く貢献したか」を積み上げて作る。その内訳がこうなっている。
| 項目(控え比の得点貢献) | 大谷 | クロウ=アームストロング | 差 |
|---|---|---|---|
| 打撃 | 34.3 | 37.5 | −3.2 |
| 走塁 | 1.1 | 5.4 | −4.3 |
| 守備 | なし(指名打者) | +19.8 | −19.8 |
| ポジション補正 | −12.7 | +1.4 | −14.1 |
| 控え選手との差 | 16.6 | 17.5 | −0.9 |
| リーグ調整 | +1.1 | +1.1 | −0.1 |
| 合計 | 40.3 | 82.7 | −42.4 |
42.4点のうち、打撃で開いたのは3.2点。全体の7.5%にすぎない。
差の8割は、守っているか、いないかでついている。
守備で19.8点、ポジション補正で12.7点
クロウ=アームストロングは中堅手として1093イニングを守り、平均的な野手なら取れなかったアウトを23個多く取っている。500イニング以上守った中堅手24人のなかで3位。外野の一番広い場所で、これだけの働きをしている。これが19.8点だ。
大谷は指名打者なので、この項目そのものが存在しない。そのうえポジション補正で12.7点を引かれる。守備につかない打者は、打つことしか求められていないぶんを差し引く決まりになっているからだ。
打席に立つ前から、2つ合わせて30点を超える差がついている。
なぜ大谷は、今年は不調と言われるのか
今年のクロウ=アームストロングが素晴らしい成績を収めているのは、ここまで見たとおりだ。一方の大谷も、打率.289、30本塁打、出塁率.391。並の打者なら生涯の当たり年になる数字を残している。それでも「今年は不調だ」と言われ続けている。それはなぜか。
過去の自分と並べると、答えが出てくる。
| 年 | 打者WAR | 打撃 | 走塁 | ポジション補正 | wRC+ | 試合 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2021 | 5.0 | 39.5 | 2.3 | −13.7 | 150.5 | 158 |
| 2023 | 6.6 | 57.6 | 2.5 | −14.5 | 180.2 | 135 |
| 2024 | 8.9 | 69.6 | 9.7 | −17.2 | 179.7 | 159 |
| 2025 | 7.5 | 62.3 | 3.6 | −17.1 | 172.3 | 158 |
| 2026 | 4.1 | 34.3 | 1.1 | −12.7 | 152.3 | 123 |
大谷は2023年にア・リーグ、2024年と2025年にナ・リーグでMVPに選ばれている。その3年とも、14点から17点を引かれ続けていた。 それでも勝てたのは、打撃で69.6点を稼いだからだ。
今年の打撃は34.3点。36試合少ないとはいえ、2024年の半分に届いていない。 1試合あたりに直しても0.44点から0.28点まで落ちた。走塁の貢献も9.7点から1.1点である。
MVPを3度獲った年と比べれば、打つほうでも走るほうでも、今年の大谷は明らかに落ちている。 相手が良い成績を残しているから、というだけの話ではないのだ。
残り32試合で、逆転はできるのか
では、どうすれば届くのか。ここからは条件を計算する。
両者が今のペースを続けた場合、大谷は8.13、クロウ=アームストロングは10.53で着地する。差は1.37から2.39へ広がる。 追いつくどころではない。
まず、打つほうだけで埋めようとした場合。 残り約142打席で、1打席あたりの生産を現在の3.2倍にしなければならない。wRC+に直せばおよそ269になる。
この数字がどれほど遠いかは、歴史と並べれば分かる。
| 選手 | 年 | wRC+ |
|---|---|---|
| バリー・ボンズ | 2002 | 244 |
| バリー・ボンズ | 2001 | 235 |
| ベーブ・ルース | 1920 | 234 |
| バリー・ボンズ | 2004 | 233 |
| テッド・ウィリアムズ | 1957 | 223 |
歴史上、これを超えたシーズンは存在しない。打つほうだけで逆転する道は、事実上ふさがっている。
次に、投げるほうだけで埋めようとした場合。 今季のペースなら、2.39を稼ぐのに約70イニングが要る。残り32試合で6先発できたとして、届くのは36イニング分。半分にしかならない。
つまり、どちらか一方では足りない。両方やって、ようやく並ぶ。 6先発を防御率1.79級で投げきり、そのうえで打撃を今の約2.1倍に上げる。それが数字の上での条件になる。ただし大谷は7月3日を最後に登板がなく、復帰時期は発表されていない。
過去に覆された差は、最大で1.74
ここまで書いておいて、最後に材料をもうひとつ出す。
MVPは、fWARの1位に自動的に贈られる賞ではない。過去7年のナ・リーグMVPと、その選手のリーグ内fWAR順位を調べた。
| 年 | MVP | 本人のfWAR | 順位 | 1位との差 |
|---|---|---|---|---|
| 2018 | クリスチャン・イエリッチ | 7.7 | 3位 | 1.74 |
| 2019 | コディ・ベリンジャー | 7.8 | 1位 | — |
| 2021 | ブライス・ハーパー | 6.7 | 6位 | 0.94 |
| 2022 | ポール・ゴールドシュミット | 6.8 | 3位 | 0.39 |
| 2023 | ロナルド・アクーニャJr. | 9.1 | 1位 | — |
| 2024 | 大谷翔平 | 8.9 | 1位 | — |
| 2025 | 大谷翔平 | 9.4 | 1位 | — |
7年のうち3年、1位ではない選手が選ばれている。 2021年のハーパーに至ってはリーグ6位だった。記者投票は、守備の指標やポジション補正をWARほど機械的には扱わない。
ただし、覆された差には上限があった。最大でも1.74。 大谷の現在の1.37は、その範囲に収まっている。だが今のペースで着地する2.39は、過去3例のどれよりも大きい。
ここにチーム成績が絡む。ドジャースは79勝51敗で地区首位、カブスは74勝56敗で7ゲーム差の2位。記者票を左右する要素として、この並びが大谷に不利に働くとは考えにくい。
そしてクロウ=アームストロングは24歳、初めてMVP争いの真ん中に立っている。WARの半分近くを守備の指標に預けている選手でもある。残り32試合で打撃が落ちる可能性も、守備の数字が振れる可能性も、当然ある。 結果はまだ誰にも分からない。
ただ、例年のように「大谷が絶対」と言える状況でないことだけは間違いない。
毎年のようにMVP争いの中心にいること自体が異常なのだと、あらためて思い知らされる。その大谷が、いま追う側にいる。シーズン最後の1試合まで、目を離せない戦いになる。
この記事の数字について
出典はFanGraphs(2026年8月22日時点)とMLB公式Stats API(日本時間8月23日時点)。「着地予測」「wRC+269」「打撃を約2.1倍」は当サイトの推計で、両者が今のペースを続けた場合の単純計算にすぎない。ソーサの発言は米紙の報道を日本語記事経由で確認したもので、当サイトは本人に取材していない。
