MLBで選手の待遇を決めるルール「労使協定」が、12月1日(日本時間2日)に期限を迎える。新しい協定がまとまらなければ、オーナー側は選手を締め出す「ロックアウト」に入る見通しだ。
米メディアはロックアウトをほぼ前提に報じている。選手側も強気で、ヤンキースのカルロス・ロドン投手は、年俸の上限が導入されるなら「俺たちはプレーしない」と言い切った(AP通信、9月28日)。今オフの日本選手の移籍にも関わる話なので、基本から整理しておきたい。
ロックアウトとは何か
MLBでは、最低年俸やFAになるまでの年数など、選手の待遇をオーナー側と選手会が労使協定で決めている。今の協定は2022年3月に結ばれ、2022年から2026年までの5シーズンが対象だった。
協定が切れたあと、新しい協定を結ぶまでの間に相手へ圧力をかける手段が2つある。選手側が試合を拒むのが「ストライキ」、オーナー側が選手を締め出すのが「ロックアウト」だ。
ロックアウトに入ると、球団と選手は連絡を取ることもできない。選手は球団の施設でリハビリや練習ができず、FA選手との契約やトレードも止まる。対象はメジャー契約の選手(各球団の「40人枠」)で、枠外のマイナー選手は通常どおり活動できる。12月恒例のウインターミーティングも開かれない見込みだ(SNY、10月1日)。
なぜ今回もめているのか
理由は大きく2つある。オーナー側が1994年以来となる年俸の上限を持ち出したこと、そして選手側がそれを受け入れない構えでいることだ。
その上限が「サラリーキャップ」。各球団が選手に払う年俸の総額に上限を設ける仕組みで、NBAやNFLでは採用されているが、MLBでは労使協定に入ったことが一度もない。
オーナー側は5月下旬、年俸総額の上限を2億4530万ドルとする案を出した。同時に、最低これだけは払うという下限(1億7120万ドル)も設け、野球の収入の半分を選手に回すとしている(ESPN、5月28日)。
オーナー側の言い分は、球団ごとの年俸の差が大きすぎるというものだ。今も年俸総額が一定額を超えた球団には「ぜいたく税」を課しているが、税を払ってでも補強を続ける球団があり、差は縮まっていない。代表例が大谷翔平や山本由伸のいるドジャースで、2025年に払ったぜいたく税は1球団として過去最高の1億6940万ドルだった。
マンフレッド・コミッショナーは6月、ぜいたく税で差を縮めようとしてきたが「失敗したと認めなければならないときもある」と述べた。7月にも、年俸総額が最も多い球団と最も少ない球団で4億4100万ドルの差があると訴えている。
多くの球団の地元中継を担っていたダイヤモンド・スポーツ(Bally Sports)が経営破綻し、放映権収入が減ったことも、オーナー側の危機感を強めているとされる。
選手側は、上限ができれば選手全体に回るお金が抑えられるとして反対している。選手会を暫定で率いるブルース・マイヤー専務理事は、市場の小さい球団でも勝てていると反論する(AP通信)。
実際、今季のメジャー最高勝率は年俸の少ないブルワーズ(103勝59敗)で、ア・リーグ最高はレイズ(98勝64敗)。開幕時の年俸が3億5200万ドルを超えたメッツは74勝88敗だった。一方、年俸が最も高い部類のドジャースも100勝62敗を挙げている。
選手会は、最低年俸を150万ドルに上げることや、年俸総額がぜいたく税の基準の半分(1億5000万ドル)に満たない球団は収益の分配金を受け取れなくすることなどを求めている。
選手会では2013年から率いてきたトニー・クラーク専務理事が2月に辞任し、マイヤー氏が暫定で後を継いだばかり。SNYによると、労使双方とも12月1日までに合意できる道筋は見えていない。
過去には何を争ってきたのか
MLBの労使対立による中断は、今回ロックアウトに入れば10度目になる(AP通信)。主なものは次のとおりだ。
| 年 | 種類・期間 | 主な争点と影響 |
|---|---|---|
| 1972年 | スト・13日 | 年金。86試合が中止 |
| 1976年 | ロックアウト・17日 | FA制度。中止なし |
| 1981年 | スト・50日 | FA選手を取った球団が払う見返り。約710試合が中止 |
| 1990年 | ロックアウト・32日 | 年俸の決め方(調停)、上限案。開幕が遅れた |
| 1994〜95年 | スト・232日 | 年俸の上限。約940試合とワールドシリーズが中止 |
| 2021〜22年 | ロックアウト・99日 | ぜいたく税、若手の年俸。開幕が遅れた |
争点はほぼ毎回、選手の移籍の自由と年俸の決まり方、つまり「お金の分け方」だった。中でも上限は、1994年にワールドシリーズを中止に追い込んだ争点だ。
1994年は8月にストライキでシーズンが止まった。オーナー側は年末にキャップを一方的に導入したが、全米労働関係委員会の介入で翌年2月に撤回。3月末には裁判所の差し止め命令で旧協定の条件が戻され、選手側はストライキを解いた。シーズンは1995年4月下旬に始まった。
1996年の協定では、キャップの代わりにぜいたく税が入った(1997年開始)。これが今の制度の始まりだ。今回は、そのとき退けられた上限を再び持ち出していることになる。
前回の2021〜22年は、12月2日から99日間続いた。最低年俸の引き上げや若手へのボーナス、プレーオフの12球団への拡大などで合意し、開幕は1週間遅れたものの、試合は日程を組み直して162試合を守った。
日本選手への影響
影響を受けるのは、この冬に移籍市場に出る選手だ。カブスの鈴木誠也は5年契約を終えてFAになる。FA選手は例年、ワールドシリーズの5日後から他球団と交渉できるが、今オフは12月1日までの数週間でまとめなければ、ロックアウトで交渉が止まる。
所属球団の許可を得てメジャーに移る「ポスティング」では、阪神の佐藤輝明、西武の平良海馬、日本ハムの伊藤大海の移籍が見込まれている。各球団は例年より早い11月上旬に申請する見込みだと報じられた。交渉期間は45日あるが、12月1日を過ぎれば止まってしまうからだ。ESPNのジェフ・パッサン記者は、3人とも12月1日までに契約すると予想している。
鈴木誠也自身、前回は2021年11月にポスティングされたものの、交渉の途中でロックアウトに入り、カブスとの契約が決まったのは翌年3月だった。
来季の開幕は2027年3月24日の予定。ロックアウトが長引けば、2月9日のキャンプ開始、そして開幕がどうなるかが次の焦点になる。
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この記事の数字について(出典・集計方法)
- 協定の期限は米東部時間12月1日午後11時59分(ESPN、SNY)。前回のロックアウトは2021年12月2日から2022年3月10日までの99日間。
- オーナー側と選手側の提案内容は、ESPNのジェフ・パッサン記者の記事(5月28日)とMLBトレードルーマーズ(5月28日)による。
- ロドン投手とマイヤー氏の発言、10度目の中断、2027年のキャンプ開始と開幕の予定、メッツの年俸はAP通信(9月28日)による。
- ロックアウト中に止まること、双方の見通しはSNY(10月1日)による。
- マンフレッド・コミッショナーの発言はFront Office Sports(6月)とFOX Sports(7月14日)による。
- ドジャースのぜいたく税はESPNによる。
- 発言はいずれも報道によるもので、当サイトが取材したものではない。
- ダイヤモンド・スポーツの経営破綻と地元中継の影響はESPNのまとめ(2025年12月1日)による。
- クラーク氏の辞任はMLBトレードルーマーズ(2月17日)による。
- 今季の勝敗は MLB Stats API の順位表による。
- 過去の中断の期間と中止試合数は、NBC(2022年2月17日)とCNNのまとめによる。1981年(712〜713試合)と1994〜95年(938〜948試合)は資料によって数が違うため「約」とした。1973年、1980年、1985年の短い中断は表から省いた。1994年のキャップの一方的な導入と撤回、その後の差し止め命令はSABRによる。
- 日本選手のポスティング時期の見通しはMLBトレードルーマーズ(9月10日)が伝えたパッサン記者の報道による。鈴木誠也の2021年のポスティングとカブスとの契約はMLBトレードルーマーズ(2022年3月)による。
