同じ記録を追いながら、2人の9月は正反対を向いていた――。ブルージェイズの岡本和真が9月13日(日本時間14日)、本拠地のオリオールズ戦で32号ソロを左翼へ運んだ。9月5日に村上宗隆が30号まで伸ばした「日本人選手のMLB1年目最多本塁打」は、この9日間で4度も持ち主を変えた。32本は巨人の先輩・松井秀喜のキャリアハイ31本を超え、大谷翔平を除く日本人打者の最多に並ぶ数字。動いた理由は、打った球ではなく、振らなかった球のほうにあった。
この日の岡本は、直近の出場15試合をすべて5番か6番で過ごしたあと、8月25日以来の4番に戻っていた。スポーツ報知によれば、シュナイダー監督は左腕ロジャースを相手にスプリンガーとゲレーロJr.の後ろへ岡本を置いた理由を、「すごいパワーを持つ彼と並べるのが良いと思ったんだ」と説明している。効いたのは、その並び。
スプリンガーが15号、ゲレーロJr.が9号。3人目の岡本は、フルカウントから3球続けてファウルで粘った末の9球目、トレバー・ロジャースの153.9キロの直球をとらえた。打球速度173.6キロは、「強い当たり」の基準とされる153キロを20キロ以上も上回る数字。打球角度27度、飛距離125メートル。
球団にとっては2012年6月9日以来14年ぶりの3者連続本塁打。岡本自身は「それは、別に何も変わらないです」と平常心で打席に入ったと同紙は伝えている。その一発が、記録の持ち主を入れ替えた。
日本人選手のMLB1年目最多は、長いあいだ動かない記録だった。松井秀喜の16本(2003年)から城島健司の18本(2006年)、大谷翔平の22本(2018年)へ、15年かけて6本しか増えていない。8年動かないまま迎えた2026年、その22本を村上と岡本がそろって飛び越えていた。そして9月に入ると、2人が数日おきに抜き返し合う展開。
| 日付(米国) | 出来事 | 記録の持ち主 |
|---|---|---|
| 9月5日 | 村上30号 | 村上(単独) |
| 9月8日 | 岡本30号 | 2人が並ぶ |
| 9月9日 | 村上31号 | 村上(単独) |
| 9月11日 | 岡本31号 | 2人が並ぶ |
| 9月13日 | 岡本32号 | 岡本(単独) |
さらに、到達した高さも1年目という枠に収まらない。日本人打者がMLBで残したシーズン本塁打を選手ごとの自己最高で並べると、大谷の55本(2025年)を頂点に、鈴木誠也の32本(2025年)、松井秀喜の31本(2004年)と続いてきた。岡本の32本は鈴木に、村上の31本は松井に並んでいる。今季のMLB本塁打ランキングでも、岡本が10位で村上が11位タイ。1年目の2人が、大谷を除く日本人打者の最高到達点にそのまま重なった。
岡本は9月に打率.325…同じ月の村上は打率.114で24三振
ところが、記録を“奪い合った”当の9月は、2人でまるで違う月になった。岡本は11試合40打数13安打の打率.325、OPS1.100で4本。開幕直後の3月(5試合)を別にすれば、月間打率を3割に乗せたのはこれが初めてだった。
しかし、村上は12試合44打数5安打の打率.114、OPS.454で2本にとどまる。49打席のうち、実に24が三振だった。片方は今季最良の月を、もう片方は今季最悪の月を過ごしていた。
では、なぜ逆を向いたのか。1球ごとの計測値をたどると、正反対へ振れた数字の起点はひとつだった。ストライクゾーンの外へ来た球を振ってしまう割合、英語で「チェイス」と呼ばれる数字。岡本は8月までの28.1%から9月は20.2%へ下げ、村上は21.6%から28.0%へ上げた。
もともと“待てる”のは村上、“釣られる”のは岡本だった。ところが9月に入って、その関係が裏返っていた。振る球が変われば、打球も変わった。岡本の平均打球速度は145.5キロから149.1キロへ、「強い当たり」の割合は43.5%から56.0%へ、最も価値の高い「バレル」の割合も13.4%から16.0%へ伸びている。村上は151.3キロから148.2キロへ落ち、バレル率は19.5%から10.5%へ半減した。ただし空振り率のほうは、岡本が30.7%から28.4%へ下がった一方、村上は39.4%から40.0%とほとんど動いていない。振る球は変わったが、振ったあとに当たるかどうかは変わっていない。
もっとも、9月にインプレーとなった打球は岡本25本、村上19本しかない。1本増えればバレル率は4ポイントも5ポイントも動く数だ。だが、ゾーンの外へ来た球は岡本84球、村上107球。選球と打球という別々の測り方が、2人それぞれについて同じ向きを指している。
対する投げる側は、ほとんど何も変えていない。速球の割合は、村上に対して47.5%から45.7%へ、岡本に対して53.9%から52.6%へ動いただけ。ストライクゾーンの中に投げ込まれた割合も、2人とも3ポイント以内の変化にとどまった。入れ替わったのは来た球ではなく、その球を振るかどうかだった。
村上は9月3日まで2番…打率.114のまま最後は4番へ
村上は9月3日まで2番、4日から10日は3番。11日は先発から外れて途中出場となり、12日と13日は4番に入っている。打率.114の12試合を過ごしながら、打順は下がるどころか最後は4番まで上がった。打てない側をどう見ているかが出るのは、ベンチの並べ方。
ホワイトソックスは76勝73敗でア・リーグ中地区の首位に立ち、2位ガーディアンズとの差は0.5ゲーム。ポストシーズンが懸かった9月に、打てていない打者を打順の上位へ置き続け、最後は4番まで上げた。それ自体が、球団の側の判定だった。
もっとも、岡本にはその判定が遅れて届いた。8月26日から9月12日まで、出場した試合はすべて5番か6番。その間に本塁打を5本打ち、9月に入ってからの打率は3割を超えていた。
しかし、4番に戻ったのは32号を打ったその日だった。ブルージェイズはこの8対1の勝利で75勝75敗の5割に復帰し、ワイルドカード圏まで1.0ゲーム差につけた。報知によれば、今季85打点も2002年のE・ヒンスキーを上回る球団の新人最多で、本塁打と合わせて2部門で球団の新人記録が書き換わっている。
9日間で4度動いた記録を、2人はまったく違う方法で押し上げてきている。岡本は144試合526打数で32本、村上は30試合少ない114試合408打数で31本。“奪い合い”の中身は、「出続けて積む」打者と「少ない打数で柵を越す」打者の対比だ。そこに9月、ボール球を見送れるかどうかという差がもうひとつ乗った。
技術が追いついた結果なのか。1年目の終盤の疲労なのか。それとも、その両方なのか――。
ただし、9月の11試合と12試合で1年目を語り切ることはできない。それでも、“待てた”と“釣られた”が同じ月に正反対へ振れ、打球の中身までそろって後を追っている。問いは「どちらが記録を取るのか」から、「9月に入って2人の何が変わったのか」へ移った。
ブルージェイズは残り12試合、ホワイトソックスは残り13試合。記録がもう一度動くのか、32本のまま止まるのか。どちらに転んでも、決めるのは打った球ではなく振らなかった球だ。そして、その2週間をポストシーズン圏の縁で戦うのは、2つの球団のほうだ。
この記事の数字について
- 打撃成績はMLB Stats APIから取得した2026年9月13日(米国日付)終了時点のもの。レギュラーシーズンのみを対象とし、ポストシーズンは含まない。岡本は144試合・588打席・526打数・124安打・32本塁打・85打点・53四球・172三振、打率.236、OPS.775。村上は114試合・496打席・408打数・84安打・31本塁打・65打点・84四球・174三振、打率.206、OPS.813。
- 9月の成績は、岡本が11試合・45打席・40打数・13安打・4本塁打・7打点・5四球・12三振で打率.325、OPS1.100。村上が12試合・49打席・44打数・5安打・2本塁打・6打点・4四球・24三振で打率.114、OPS.454。いずれも9月1日から13日(米国日付)までの集計。
- 「日本人選手のMLB1年目最多本塁打」の松井秀喜16本(2003年)、城島健司18本(2006年)、大谷翔平22本(2018年)は、当サイトが2026年9月5日の記事で用いた集計と同じ基準による。Stats APIに登録された出生国が日本の選手について、メジャーでの最初のシーズンの本塁打を対象とし、マイナーや育成での在籍期間は考慮していない。
- 記録の持ち主が入れ替わった日付は、両選手のゲームログから本塁打が出た試合日を抽出して並べたもの。同数の日は「2人が並ぶ」と表記した。9月7日の岡本29号は、村上の30本を下回るため表に含めていない。
- 日本人打者のシーズン本塁打の比較は、Stats APIの年度別成績から各選手のキャリア最高を取ったもの。大谷翔平55本(2025年)、鈴木誠也32本(2025年)、松井秀喜31本(2004年)、城島健司・井口資仁18本(2006年)、吉田正尚15本(2023年)。1選手につきキャリア最高の1シーズンだけを数えているため、大谷の54本(2024年)や46本(2021年)は順位に含まれない。
- MLB本塁打ランキングの順位は、2026年レギュラーシーズンの全選手を対象にした9月13日終了時点のもの。村上の31本は、コルソン・モンゴメリー(ホワイトソックス)、サル・スチュワート(レッズ)と並ぶ11位タイ。
- ボール球に手を出す割合、空振り率、平均打球速度、強い当たりの割合、バレル率は、Baseball Savantの1球データ(2026年レギュラーシーズン)を当サイトで集計した。「ボール球に手を出す割合」はストライクゾーンの外(Savantのzoneが11〜14)に投じられた球のうちスイングした割合。ピッチクロック違反や申告敬遠による自動ボールは実際に投げられていないため、この分母から除いた(村上は8月までに27球、9月に4球あった)。「空振り率」はスイングのうち空を切った割合で、バットに当たっているファウルチップは空振りに数えていない。「強い当たり」は打球速度が時速95マイル(約153キロ)以上の打球を指す。母数は、9月が岡本173球・74スイング・25打球、村上210球・90スイング・19打球。8月までが岡本2,289球・1,089スイング・329打球、村上1,994球・790スイング・215打球。
- 9月のバレル率は、岡本が25打球中4本、村上が19打球中2本にあたる。8月までは岡本が329打球中44本、村上が215打球中42本。なお村上の215打球のうち2本は打球速度が計測されておらず、平均打球速度はその2本を除いた213打球で算出した。
- Savantの1球データは9月12日までしか収録されておらず、上の「9月」の集計に9月13日の32号は含まれていない。Stats APIから取った打撃成績(9月13日まで)とは、この1日ぶんの差がある。
- 村上は2026年6月に1球も記録がない。「8月まで」として岡本と並べている期間は、村上についてはこの1か月が丸ごと欠けており、復帰直後の打席も含んでいる。
- 「速球の割合」は、Savantのpitch_typeがフォーシーム(FF)・シンカー(SI)・カッター(FC)のいずれかである球が全投球に占める比率。「ゾーンの中に投げ込まれた割合」はzoneが1〜9の球の比率で、村上が45.5%から47.1%へ、岡本が48.4%から51.4%へ動いた。なお球種別では、村上へのスライダー(SL)が17.8%から22.9%へ増えているが、同時にシンカーが14.2%から9.0%へ減っており、速球と変化球の比率そのものはほとんど動いていない。
- 32号の球種・球速・打球速度・打球角度・飛距離、および5回の3者連続本塁打の並びは、Stats APIの1球データ(gamePk 822764)による。カウントの推移も同データから復元した。
- 打順は、両選手が出場した各試合のボックススコアに記録された打順から取得したもので、出場がなかった日は数えていない。岡本は8月26日から9月12日までの出場15試合で5番が7試合、6番が8試合。9月13日の直前に4番へ入っていたのは8月25日で、その6日前の8月19日にも4番に入っている。村上は8月21日から9月3日まで2番を続け、9月4日から10日が3番、12日と13日が4番。9月11日は先発オーダーに入らず、2番の打席に途中から入っている(ボックススコアの打順は、先発のグリチックが200、村上が201)。
- チームの勝敗と順位は、Stats APIの9月13日終了時点の順位表による。残り試合数は9月14日以降のスケジュールから数えたもので、両チームとも最終戦は9月27日。ブルージェイズのワイルドカードの差は、Stats APIの順位表が示す1.0ゲーム差による。
- シュナイダー監督と岡本の発言、3者連続本塁打が2012年6月9日以来14年ぶりであること、85打点と本塁打の2部門で球団の新人記録が塗り替わったことは、スポーツ報知が2026年9月14日に配信した記事によるもので、当サイトが取材したものではない。同紙の引用内にある「ロジャーズ」は、本文で「トレバー・ロジャース」と表記した投手と同一人物。
- 単位はマイル毎時とフィートをキロメートル毎時とメートルに換算して表記した(1マイル=1.609344キロ、1フィート=0.3048メートル)。
