8月26日(日本時間27日)、本拠地でのレンジャーズ戦。ホワイトソックスの村上宗隆は、5つの打席をこう終えた。1回に併殺打、2回に空振り三振、4回に四球、6回に四球、そして8回に見逃し三振。3打数無安打2三振、四球2つである。
8月の村上は、この形をひと月続けている。24試合で107打席に立ち、打率.144。三振41、四球16、本塁打5。打率も三振の数も、今季の月別では最も悪い。
それでいて、シーズン成績はまだ崩れていない。98試合429打席で打率.219、出塁率.357、長打率.503、本塁打29本。OPSは.860で、規定打席に到達した138人の中で18位に立っている。長打率は15位。落ちているのは打率だけだ。
打率2割1分台でOPS.850を超えている打者は、規定に到達した138人の中で村上ひとりである。次に打率が低いのはカイル・シュワーバーの.243で、2分以上離れている。ではこの打者に何が起きているのか。答えを先に言えば、村上は正反対の2つの指標で、どちらもMLBの1位に立っている。
振っているのは、ストライクだ
まず三振の側から見る。Statcastは1球ごとに、打者が振ったかどうか、当たったかどうかを記録している。
村上の空振り率は42.0%。規定打席に到達した138人の中で1位である。2位はコルソン・モンゴメリーの37.6%で、4ポイント以上の差がついている。リーグ平均は23.9%だから、平均の1.7倍を超える頻度で空振りしている計算になる。振った球の5球に2球が空を切る打者、と言い換えてもいい。
ここまでは、三振率33.8%(MLB2位)から想像できる通りだ。ところが次の数字が、その想像を裏切る。
ボール球を振った割合は21.9%で、リーグ平均の30.2%を大きく下回る。138人の中では低いほうから14位。ゾーンの外に投げても、村上はあまり手を出さない。四球率17.2%がMLB3位まで伸びているのは、ここが効いている。
つまり村上は、ボール球に釣られて三振しているのではない。振っているのはストライクだ。それでも当たらない。
その当たらなさが、いちばんはっきり出る数字がある。ストライクゾーン内の球を振ったとき、バットに当たる割合は67.7%。これは138人の最下位である。リーグ平均は84.7%。低いほうから2番目のニック・カーツでも73.0%あるから、村上だけが5ポイント以上離れて底にいる。ストライクを振って、3球に1球は空振りしている。
| 指標 | 村上 | 138人中の順位 | リーグ平均 |
|---|---|---|---|
| 空振り率 | 42.0% | 1位 | 23.9% |
| ゾーン内コンタクト率 | 67.7% | 最下位 | 84.7% |
| ボール球スイング率 | 21.9% | 低いほうから14位 | 30.2% |
| 三振率 | 33.8% | 2位 | 20.7% |
| 四球率 | 17.2% | 3位 | 9.6% |
当たれば、MLBで最も強い
では、当たったときはどうか。ここが村上のもう一方の顔である。
強く打った打球の割合は58.2%で、これも138人の1位だ。Statcastは打球速度が時速152.9キロ以上のものを「強い打球」と分類している。村上は打球の6割近くを、この領域に入れている。2位はジェームズ・ウッドの57.6%、3位はカーツの57.3%。リーグ平均は40.7%である。
平均打球速度は151.3キロで、138人中4位。1位ウッドの153.0キロとの差は1.7キロしかない。リーグ平均は143.8キロだから、村上は7キロ以上速い打球を打ち返し続けていることになる。今季の最速は183.6キロだった。
長打になりやすい角度と速度の組み合わせに入った打球を「バレル」と呼ぶ。村上のバレル率は19.7%で、138人中2位。リーグ平均は8.8%だから、平均の2.2倍である。1位ウッドの20.8%との差は1.1ポイントしかない。
| 指標 | 村上 | 138人中の順位 | リーグ平均 |
|---|---|---|---|
| 強い打球の割合 | 58.2% | 1位 | 40.7% |
| バレル率 | 19.7% | 2位 | 8.8% |
| 平均打球速度 | 151.3キロ | 4位 | 143.8キロ |
138人の中で、空振り率1位。強い打球の割合でも1位。この2つは、普通は同じ打者の中に同居しない。
11年間、誰もいなかった
どれくらい同居しないのか。Statcastのデータが公開されている2015年から今季までの12シーズンについて、規定打席到達者の中で空振り率1位だった打者と、強い打球の割合1位だった打者を並べてみた。
2015年はジョク・ピーダーソンとミゲル・カブレラ。2017年はジョーイ・ギャロとアーロン・ジャッジ。2020年はケストン・ヒウラとフェルナンド・タティスJr.。2024年はザック・ゲロフとジャッジ。2015年から2025年までの11シーズンは、一度の例外もなく別人だった。同じ打者が2つの1位を同時に持っているのは、12シーズン目の2026年、村上が初めてである。
条件を緩めても、この組み合わせは滅多に出てこない。空振り率36%以上かつ強い打球の割合52%以上という枠に入ったシーズンは、12年間で6回しかない。2017年のギャロ、2020年のミゲル・サノー、同年のエヴァン・ホワイト、2021年のサノー、そして今季の村上とカーツである。
ただし、この6回は横並びではない。2020年の2人は60試合の短縮シーズンで、200打席そこそこしか立っていない。今季の2人は、まだシーズンの途中である。 162試合を走りきったうえでこの枠に入ったのは、2017年のギャロと2021年のサノーの2人だけだ。
中でも近いのが、2017年のギャロだ。空振り率43.4%、強い打球の割合52.2%、打率.209でOPS.870。数字の形が村上とよく似ている。ギャロはこの年、145試合で41本塁打を放ちながら、打率は2割1分に届かなかった。
ただし村上のほうが、打球は強い。ギャロの52.2%に対して村上は58.2%。当たったときの破壊力では、村上が上を行っている。
同じ強さで打って、打率が分かれた
ここまでで、三振が多いことも、長打が出ることも説明がついた。残るのは打率である。これだけ強く打っているのに、なぜ.219で止まるのか。
比較に使えるのがカーツだ。強い打球の割合57.3%は村上の58.2%とほぼ同じ。空振り率36.9%も3位で、ゾーン内コンタクト率73.0%は村上に次いで低い。村上と同じ枠にいる打者である。ところがカーツの打率は.256で、村上より3分7厘高い。
2人を分けているのは、打球の種類だった。村上のライナーの割合は14.9%で、138人の最下位である。リーグ平均は24.0%、カーツは26.1%。9ポイント以上少ない。
その分は、フライに移っている。村上のフライ38.0%は138人中3位の高さで、リーグ平均の27.7%を10ポイント上回る。一方でゴロ42.3%は、平均の41.2%とほとんど変わらない。消えたライナーが、そのままフライになっている。
ライナーは、野球のあらゆる打球の中で最も安打になりやすい。フライはスタンドまで届けば本塁打になるが、届かなければ野手のグラブに収まる。ゴロは内野を抜けなければ終わる。ライナーだけが、強く打った分がそのまま安打として返ってくる。
その差は、インプレーになった打球の打率にそのまま出る。村上のBABIPは.268、カーツは.363。リーグ平均は.296である。打球の強さはほぼ同じ、空振りの多さも上位で並ぶ2人だが、打球がライナーにならない村上は、当たった球の2割7分ほどしか安打にできていない。カーツは3割6分を超える。
そしてこの.219は、不運ではない。打球の速度と角度から1球ずつ安打になる確率を積み上げた期待打率(xBA)は.215で、実際の打率.219とほとんど一致している。守備位置や球場の影響を取り除いても、村上の打率はここに落ち着く。
逆に言えば、カーツの.256のほうが借り物である。カーツの期待打率は.243で、実際の打率より1分3厘低い。BABIP.363という高い数字が、その差を埋めている。2人の打率の差3分7厘のうち、期待打率の差で説明がつくのは2分8厘までだ。
| 指標 | 村上 | ニック・カーツ | リーグ平均 |
|---|---|---|---|
| 打率 | .219 | .256 | .256 |
| 期待打率 | .215 | .243 | .254 |
| ライナーの割合 | 14.9% | 26.1% | 24.0% |
| BABIP | .268 | .363 | .296 |
| 空振り率 | 42.0% | 36.9% | 23.9% |
| 強い打球の割合 | 58.2% | 57.3% | 40.7% |
8月に崩れたのは、振り方ではない
最後に、冒頭の1か月へ戻る。打率.144。何かが壊れたように見える数字だ。
ところが1球ごとのデータを月ごとに割ると、振り方の側には崩れた形跡が見つからない。空振り率も、ゾーン内でバットに当たる割合も、ボール球に手を出す割合も、8月は通算の数字とほぼ重なる。ゾーン内コンタクト率にいたっては、8月のほうが1ポイント以上良い。
| 4月 | 5月 | 7月 | 8月 | 通算 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 打率 | .228 | .244 | .258 | .144 | .219 |
| 空振り率 | 44.3% | 40.4% | 42.9% | 41.7% | 42.0% |
| ゾーン内コンタクト率 | 64.2% | 70.5% | 63.3% | 68.9% | 67.7% |
| ボール球スイング率 | 20.6% | 22.3% | 22.2% | 21.9% | 21.9% |
| 平均打球速度 | 155.0キロ | 149.8キロ | 151.9キロ | 150.2キロ | 151.3キロ |
| 強い打球の割合 | 64.2% | 53.6% | 67.6% | 51.0% | 58.7% |
| 打球数 | 53 | 56 | 37 | 49 | 206 |
※月別の「強い打球の割合」は当サイトの1球データ集計値。通算58.7%が本文の58.2%(Savantの公表値)と違う理由は末尾に記した。
村上は5月30日に右ハムストリングの肉離れで故障者リストに入り、7月10日に復帰するまで35試合を欠場した。表に6月がないのはそのためである。
打率を別にすれば、8月に大きく動いたのは強い打球の割合の行だけだ。7月の67.6%から8月は51.0%へ、16.6ポイント落ちている。ただしこれは今季初めてではない。5月も53.6%まで下がっていて、その月の打率は.244だった。逆に4月は64.2%と今季2番目に高かったが、打率は.228である。しかも比べているのは37打球と49打球で、1試合の当たり損ないが数ポイント動かす母数でしかない。
打率と連動しない指標は、ほかにもある。7月のゾーン内コンタクト率63.3%は今季で最も悪い。それでいて、その月の打率.258は、18打数の3月(.278)を除けば今季で最も良かった。
つまり8月の.144は、振り方が壊れて生まれた数字ではない。空振り率もゾーン内コンタクト率もボール球スイング率も平均打球速度も通算とほぼ同じまま、打率という結果だけが、4月から7月の.228〜.258(3月は.278)の下へ大きく外れた。ただし裏を返せば、戻ってくる先も高くはない。期待打率.215は、村上の打率がおおむねここだと言っている。
ホワイトソックスは70勝63敗でア・リーグ中地区の首位に立ち、残り29試合を戦う。
その29試合で揺れるのは、打率ではない。強い打球の割合は、2位ジェームズ・ウッドの57.6%とわずか0.6ポイント差である。空振り率のほうは2位に4.4ポイントの差をつけていて、まず動かない。
もうひとつ、記録が消える道がある。ここまでの順位はすべて「規定打席に到達した138人の中で」の話だが、村上自身がその138人から外れる可能性が残っている。 規定打席はチームの試合数に比例して上がっていく。133試合を終えた時点の基準は413打席で、村上の429打席との差は16打席しかない。8月に打率.144で沈んでいる打者である。5、6試合スタメンを外れれば、基準のほうが追い越す。
11年間どの打者にも起きなかった2つの1位の同居が記録として残るかどうかは、村上の打球がこの先どれだけ強いままでいられるかと、そもそも打席に立ち続けられるかにかかっている。
この記事の数字について
- 成績と月別成績はMLB公式のStats API(レギュラーシーズンのみ)から2026年8月28日に取得した。順位は同日時点のもの
- 本記事の順位とリーグ平均は、すべて Baseball Savant のリーダーボードで2026年に規定打席へ到達した138人を母集団としている。リーグ平均はこの138人の単純平均であり、MLB全打者の平均ではない。MLB公式のStats APIは同じ条件で139人を規定到達としており、母集団を混ぜないため打撃成績の順位もSavant側の138人でそろえた
- 空振り率・ゾーン内コンタクト率・ボール球スイング率・強い打球の割合・バレル率・平均打球速度・ライナーの割合・BABIP・期待打率は、Baseball Savant のリーダーボードの公表値
- 空振り率は、スイングした球のうち空振りになった割合。スイングにはファウルと打球になった球を含む
- 「強い打球」は打球速度が時速152.9キロ以上の打球を指すStatcastの区分。原データの単位はマイル毎時(95マイル)で、本記事の打球速度はすべてキロメートル毎時に換算した
- 「バレル」はStatcastの区分で、打球速度と角度の組み合わせが統計上もっとも長打になりやすい領域に入った打球。バレル率は打球全体に占める割合
- BABIPは、本塁打と三振を除いた打球のうち安打になった割合。守備と運の影響を強く受ける
- 期待打率(xBA)は、打球の速度と角度から1球ずつ安打になる確率を出し、三振を0として全打数で割ったもの。守備位置や球場の影響を受けない(打球の種類によっては打者の走力が計算に入る)。三振も分母に含むので、村上とカーツの期待打率の差には三振の多さの差も混ざっている
- 月別の空振り率・ゾーン内コンタクト率・ボール球スイング率・平均打球速度は、Baseball Savant の1球ごとのデータ(2026年レギュラーシーズン、1910球)から当サイトが集計した。通算値はいずれもSavantの公表値と一致している
- 月別表の「強い打球の割合」も同じ当サイトの集計値である。この行の通算値58.7%だけは、本文中の58.2%(Savantの公表値)とわずかに違う。当サイトの母数が打球206個、Savantが208個で、打球速度が記録されなかった打球の扱いが異なるためである。強い打球そのものの数は、どちらも121個で一致している
- 2015年からの12シーズンの比較は、各年の規定打席到達者(129〜146人)を対象に、空振り率の1位と強い打球の割合の1位をそれぞれ求めたもの。2026年は進行中のシーズンであり、シーズン終了時点の結果ではない
- 「空振り率36%以上かつ強い打球の割合52%以上」の6回は、境界のすぐ外にも打者がいる。2026年のギャレット・ミッチェルは空振り率36.7%・強い打球51.9%で、あと0.1ポイントで7回目になる。この種の線引きは、基準を少し動かすと件数が変わる
- 3月の成績(5試合18打数、93球、打球11個)は、母数が小さいため月別表から外した。表の「通算」列と、本文のシーズン成績には含まれている。月別表の打球数を4月から8月まで足すと195で、通算206との差11が3月ぶんである
- 村上の故障者リスト入りと復帰の日付は、Stats APIの選手異動記録から取得した(5月30日に右ハムストリングの肉離れで10日間の故障者リスト入り、7月10日に復帰)。原文は "Right hamstring strain"
- 「ライナーが出ないから打率が上がらない」は当サイトの推論である。ライナーの割合とBABIPが揃って低いことはデータに出ているが、その原因がスイングの軌道にあるのか、打席での狙いにあるのかは、この記事の数字からは特定できない
- 比較に使ったのはニック・カーツ1人と、過去12シーズンの1位打者に限られる
