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ニュース2026-08-31大谷翔平ドジャース本塁打バレル打球速度StatcastMLB

大谷10試合ノーアーチ 消えたのは1種類の打球だけ

大谷10試合ノーアーチ 消えたのは1種類の打球だけ

8月30日のタイガース戦、大谷翔平は5打数無安打。最後の本塁打は8月18日で、そこから10試合連続でアーチが出ていない。40打数5安打、打率.125、打点0。ところが1球ごとの計測データを開くと、スイングの速さはむしろ上がり、空振り率も選球も8月18日までとほとんど変わっていない。消えていたのは「バレル」と呼ばれる1種類の打球だけだった。今季の大谷の本塁打30本は、例外なくこのバレルから生まれている。

Baseball Archives 編集部2026-08-31データ出典 MLB Stats API

8月30日、デトロイトのコメリカ・パーク。ドジャースの大谷翔平は1番・指名打者で出場し、5打数無安打に終わった。初回のゴロ、3回のライナー、5回の空振り三振、7回のゴロ、そして9回は見逃し三振。チームは6対1で勝ったが、その6点に大谷は絡んでいない。

最後にアーチを架けたのは8月18日である。そこから10試合、40打数5安打で打率.125。打点はゼロ。長打は二塁打と三塁打が1本ずつだけで、三振は15を数える。

昨季55本、一昨季54本。今季も131試合で30本と、メジャー全体で10位につけている打者の話である。折しも投手としての復帰は白紙になったばかりで、ロバーツ監督は「腕や膝も含めて、全体的に状態が上向いてきていない」と話している。体の状態と結びつけて語られやすい局面である。

ところが1球ごとの計測データを開くと、話はまったく違う方向に行く。

バットは、むしろ速く振れている

Statcastは1スイングごとにバットの速さを測っている。8月18日までの大谷は平均時速120.1キロ。8月19日以降は121.5キロで、1.4キロ速くなっている。落ちているどころではない。

スイングして空を切る割合は30.7パーセントから31.0パーセント。ボール球に手を出す割合にいたっては30.6パーセントから28.7パーセントへ、こちらも減っている。振る力も、選ぶ目も、落ちていない。

最も強く弾き返した打球は時速182キロ。今季の最速は184キロだから、8月19日以降も、ほぼ最大出力の打球を1本は打っている。出力そのものが落ちているという説明は、この数字とかみ合わない。

消えたのは、1種類の打球だけ

変わったのは、打球の中身である。

Statcastは1つひとつの打球を、速度と角度の組み合わせで6種類に分類する。そのうち最も価値が高いものが「バレル」と呼ばれる。おおむね時速157キロ以上で、角度も本塁打になりやすい範囲に収まった打球のことだ。

今季の大谷が打った354本の打球のうち、バレルは57本。そして、その57本のうち30本、実に52.6パーセントが本塁打になっている。バレルを1本打てば、2本に1本以上の確率でスタンドまで届く計算だ。

もう一方の数字のほうが決定的である。バレルではなかった297本の打球から、大谷の本塁打は1本も出ていない

打球数 本塁打
バレルだった打球 57 30
バレルでなかった打球 297 0

そのバレル率が、8月18日までの16.9パーセントから4.5パーセントへ落ちた。直近の22打球で出たバレルはたった1本。8月25日、時速165キロ・角度29度の当たりで、これは三塁打になった。

本塁打が止まったのではない。本塁打になる打球そのものが、出ていない。

ボールの上を、叩いている

ではバレルはどこへ消えたのか。同じ分類表の、別の欄に移っていた。

Statcastが「上を叩いた打球」に分類した割合が、28.9パーセントから54.5パーセントへ跳ね上がっている。打球のおよそ2本に1本が、ボールの上っ面を叩いた当たり。平均打球角度は13.1度から4.3度へ下がり、ゴロの割合は41.0パーセントから54.5パーセントに増えた。

この水準がどれだけ異常か。Statcastに記録のある試合日を10日付ずつの区間に区切って116通り並べると、8月18日から29日までの直近区間が53.8パーセントで、今季の最悪値になる。中央値は29.3パーセントだから、ほぼ倍である。

バットが通る軌道の角度は、8月19日以降も11.7度あった。8月18日までの12.5度からほとんど動いていない。それなのに、実際に飛んだ打球の角度は4.3度である。バットは上向きに出ているのに、打球はその7度下を行っている。バットとボールの縦の合わせが、下にずれている。

Statcastが測るミートポイントも動いた。打者の位置からボールを捉えた地点までの距離は、8月18日までの65.0センチから62.5センチへ。2.5センチぶん、体に近いところで当てている。

相手の球は、今季屈指の速さだった

外に原因を探すなら、いちばん目につくのは相手の球速だ。

8月18日までの大谷は、投げられた速球1077球のうち時速156キロ以上を195球、率にして18.1パーセント浴びていた。8月19日以降は速球94球のうち46球。割合は48.9パーセントで、5球に1球が2球に1球になった。

速球 156キロ以上 その割合
〜8月18日 1077球 195球 18.1%
8月19日〜 94球 46球 48.9%

直近の10日付区間の相手速球の平均は時速155キロで、今季116区間のうち3番目に速い。相手を並べれば理由もわかる。パイレーツのジャレッド・ジョーンズが平均160キロ、同じくバッバ・チャンドラーが160キロ、ブレーブスのクリス・セールが158キロ。この期間に投げ込まれた最速は、8月22日にアントワン・ケリーが記録した165キロである。

そして大谷は、今季を通じて速い球ほどバレルを打てていない。速球への打球186本を球速で分けると、バレル率はきれいに一方向へ落ちていく。

速球の球速 打球数 バレル率 上を叩いた率
150キロ未満 63 23.8% 27.0%
150〜153キロ 47 21.3% 23.4%
153〜156キロ 45 15.6% 35.6%
156キロ以上 31 12.9% 51.6%

156キロ以上になると、バレル率は最も遅い帯の半分近くまで下がる。上を叩く割合のほうは最初の2行が逆行しているが、153キロを超えたところから跳ね上がり、最速帯では51.6パーセントに達する。

実際、8月19日以降に速球を打ち返した13本の平均打球速度は時速145キロだった。8月18日までは153キロである。速球にだけ、強い当たりが出ていない。

説明としては、きれいにつながって見える。

それでも、速さでは説明しきれない

しかし、この仮説には都合の悪い事実が2つある。

1つめ。5月30日から6月10日までの区間、大谷が浴びた速球のうち156キロ以上は48.5パーセントだった。いまとほぼ同じ割合である。ところがその期間の「上を叩いた率」は22.6パーセントで、8月18日までの28.9パーセントよりさらに低い。バレル率は12.9パーセントと平常時からは落ちていたものの、本塁打は2本出ている。同じ速さの球を浴びながら、6月の大谷は上を叩いていなかった。

2つめは計算で確かめられる。直近22本の打球を、どんな球種のどんな球速を打ったかで分類し、それぞれに8月18日までの区分別バレル率を当てはめてみる。出てくる期待値は16.8パーセント、本数にして3.7本だ。8月18日までの実績16.9パーセントと、ほとんど変わらない。

バレル率
8月18日までの実績 16.9%
直近22打球の球種構成から期待される値 16.8%
直近22打球の実際 4.5%

相手の球が速くなったことは事実である。だが実際に打球になった22本の中身だけを見れば、バレルが12ポイント消える理由にはならない。速い球は増えた。しかし減ったバレルのほとんどは、その増加では説明が付かない。

残るのは大谷自身の側である。ただし、力に関わる計測値はどれも正常だった。バットの速さも、空振り率も、選球も。打球の中身のほかに動いているのは、追い込まれる打席の割合が51.8パーセントから68.1パーセントへ増えたことと、三振の割合が23.0パーセントから31.9パーセントへ上がったことである。どちらも「当たる場所が下にずれている」ことの結果としても説明できてしまう。

材料だけ、並べておく

ここで、記事の冒頭に戻る。

ロバーツ監督は8月29日、大谷の投手復帰を白紙に戻すと明かしたうえで、「腕や膝も含めて、全体的に状態が上向いてきていない」と語っている。左膝と右腕の状態が理由だった。監督は打撃不振との関係については否定している。

当サイトが持っているのは計測値だけで、体の中は測れない。そのうえで、ここまでに出てきた数字を並べ直すとこうなる。

腕を振る力は無事で、変わったのはボールとバットを縦にどう合わせるか、そしてどこで捉えるか——という並びになる。これが下半身の話と結びつくのかどうかは、この記事の数字からは決められない。監督の説明とも一致しない。

言えるのは、消えたのが「力」ではなく「合わせ」だということまでである。

22本の打球

ここまでの数字には、はっきりした限界がある。8月19日以降の打球は22本しかない。バレル率が4.5パーセントということは、1本出るか出ないかで数字が5ポイント動くということだ。1本多ければ9.1パーセントになる。

ミートポイントも同じである。6月14日から26日にかけての区間、大谷は57.3センチの地点で捉えていた。いまの62.5センチより、さらに5センチ手前だ。それでもその区間でバレルは18.2パーセント出て、本塁打は3本生まれている。同じ区間の「上を叩いた率」は50.0パーセントで、いまとほとんど変わらない。上を叩く打球が増えること自体は、この打者に何度も起きている。今回はそこにバレルの消失が重なった。

わかっているのは3つだけである。バットは同じ速さで振れている。打球はバットの軌道より7度下を飛んでいる。そして本塁打を生む唯一の打球が、22本のうち1本しか出ていない。

シーズンは残り25試合。この10試合が単なる22本ぶんのばらつきだったのか、それとも9月に持ち越されるものなのか。答えは、次のカードで出はじめる。


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