打ち込まれている投手の数字には見えなかった――。カブスの今永昇太は9月16日(日本時間17日)の本拠地ブレーブス戦に先発し、6回100球を4安打1失点、8奪三振無四球で投げ切った。6回以上を自責3以下で抑える「クオリティースタート」は、9月の3登板すべてで並べた。今季は30先発168回1/3で被本塁打34本、アーロン・ノラと並ぶMLB最多タイ。ノラも168回1/3で、本数だけでなくイニングまで同じだった。ただ、1球ごとの計測値をたどると、34本の出どころは打球の速さではなかった。
被本塁打34本は、日本人投手が1シーズンに浴びた数としても歴代3位だった。上にいるのは2019年の菊池雄星の36本と、2017年の田中将大の35本だけ。
ところが、被弾の数だけが並んでいた。
| 年 | 投手 | 被本塁打 | 投球回 | 与四球率 | WHIP | 防御率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2019 | 菊池雄星 | 36 | 161回2/3 | 2.78 | 1.52 | 5.46 |
| 2017 | 田中将大 | 35 | 178回1/3 | 2.07 | 1.24 | 4.74 |
| 2026 | 今永昇太 | 34 | 168回1/3 | 1.98 | 1.10 | 3.80 |
防御率は菊池と1.66、田中と0.94ひらいた。分けたのは走者の数だった。今永の与四球は168回1/3で37個、9イニングあたりに直した「与四球率」は1.98個で、50回以上を投げたMLB319投手のうち少ないほうから21番目。同じ34本を浴びたノラは58個、9イニングあたり3.10個だった。そして本塁打が大きな失点に化けるかどうかは、その塁上に何人いるか次第だった。
実際、34本のうち24本は走者なしの場面から飛び、一塁のみが3本、得点圏に走者を置いて打たれたのは7本だけ。7割が“ソロ”という内訳は、今季MLBで飛んだ本塁打5341本のうちソロが57.8パーセントだったのと比べても偏っている。渡米からの3年では、被弾は27本、31本、34本と増えた。ただし9イニングあたりに直した「被本塁打率」は1.40本、1.93本、1.82本で、跳ね上がったのは2年目であり、今季は前年からわずかに下がっている。今季の34本は率が上がった結果ではなく、故障で144回2/3にとどまった前年から、23回2/3多く投げた分だった。
強い当たりは102位、その一打がバレルになる割合は7位
もっとも、“ソロ”の多さは失点を抑えた理由であって、一発が多い理由の説明にはならない。だが打球の中身を見ると、数字が2つに割れた。強く打たれた打球の割合、いわゆる「ハードヒット率」は36.3パーセントで、100回以上を投げた137投手の中央値38.9パーセントを下回る102位。平均打球速度も94位で、強い当たりを浴びている投手ではない。
ところが、割れたのは角度のほうだった。「打球角度」の平均は17.8度で、137投手の中央値13.9度を大きく上回る23位。Statcastには、速さと角度の両方がそろって初めて付く「バレル」という判定がある。この指標が数えるのは「本塁打になりやすい当たり」だけで、時速158キロ(98マイル)以上の速さと、それに見合う角度の両方が要った。角度だけでは付かない。今永のバレル率9.7パーセントは中央値8.0パーセントを超える25位。強い当たりの総量は下から数えたほうが早いのに、その数少ない強い当たりが、そろって本塁打の角度に乗っていた。
割合で見るとはっきりした。ハードヒットと判定された173本のうち、バレルにまで達したのは46本で26.6パーセント。137投手の中央値は20.4パーセントで、今永は高いほうから7番目だった。打者は今永から強い当たりを増やしたのではない。強く打てた一打を、上げていた。
その一打が、平均よりよく柵を越えた。今季与えたバレル46本のうち、スタンドまで届いたのは27本。58.7パーセントという割合は、バレルを15本以上与えた135投手の中央値48.4パーセントを上回り、高いほうから16番目だった。同じ日本人で被弾4位の菅野智之は26本で44.1パーセント、95番目だった。ただし被弾34本のうちバレル判定は、その27本だけ。残る7本は、バレルに達しない当たりから出ている。柵を越えた当たりは、バレルの内と外の両方から来ていた。もっとも46本という母数では、数本の差で順位は大きく動く。
本拠地1.27本、敵地1.23本 残ったのは球の高さ
真っ先に疑われるのは本拠地リグレー・フィールドの風だが、本拠地18登板1650球で21本、ビジター12登板1058球で13本。100球あたりでは1.27本と1.23本、打球あたりでは7.0パーセントと7.4パーセント。どちらの分母で割っても差は小さく、向きも定まらない。1試合3本以上を浴びた6試合も、本拠地と敵地でちょうど3ずつに割れた。
ただし、打球そのものが球場に左右されにくかったわけではない。中日スポーツ(9月17日)によれば、Statcastが球場を補正して算出した推定被弾は28.1本で、実際の34本はそれを5.9本上回る。同記事はこの差をMLBで3番目の大きさとしたうえで、全30球場で本塁打になる「文句なし」の当たりは29.4パーセントだったと伝えている。7割以上は、球場によっては越えていなかった計算だった。リグレーだから多いのではない。越えるか越えないかの当たりが多く、それが越えていた。
代わりに手掛かりが出てきたのは、打たれた球の高さだった。スプリットの被弾9本は平均61.5センチの高さで、この球種の平均54.1センチより7.4センチ上ずっている。スイーパーの6本も72.8センチで、平均の61.6センチより11.2センチ高い。落ちる球が抜けたところを叩かれている形だった。
速球のほうは逆で、被弾16本の平均は87.4センチと、フォーシーム全体の平均90.9センチよりむしろ低かった。ただ、この87.4センチは打たれている高さを指していない。高さ別に割ると、被弾は両端に寄っていた。膝の上から太ももにあたる61〜79センチの240球からは7本、100球あたり2.92本。98センチより上の406球からも7本で1.72本。ところが、その間の79〜98センチは347球で2本、0.58本しかなかった。61センチより低い102球からは1本も出ていない。平均87.4センチは、上と下に割れた当たりの真ん中にすぎなかった。
8月30日の3被弾と、9月の18イニング
さらに、その34本は登板にも均等に散っていない。今季30登板のうち、被弾ゼロで終えた試合が11あった。一方で1試合3本以上を浴びた登板が6度あり、そこから出た本塁打は19本。被弾34本の半分以上が、30登板のうちわずか6試合に集まった。この6試合を“崩れた日”と呼ぶなら、残る24登板のうち22試合は被弾1本以下で終えている。3被弾以上の試合が6度というのは、MLBの左腕として単一シーズン最多だとマイナビニュース(8月31日)が報じている。
その6度目が、8月30日(日本時間31日)のレッズ戦だった。5回8安打6失点、3被弾。クレイグ・カウンセル監督は試合後に「1試合で3本はさすがに多い」と語ったと、同記事は伝えた。監督が試合後にわざわざ本数へ触れたこの日が、結果として6度目にして最後になっている。今永はここから9月の3登板で18イニングを投げ、被弾は1本だけだった。
MLB最多の被弾を抱えていても、現地の評価は低くなかった。9月16日の登板後、地元中継局マーキー・スポーツ・ネットワークのジム・デシェイーズ解説者が今永を擁護している。「シーズンを通すとかなり手堅い出来」と述べたと、中日スポーツ(9月17日)が報じた。同記事によれば、今永の防御率3.80はナ・リーグ13位で、リーグ先発投手の平均4.28より0.48低い。
数字の側も、失点そのものは打球の中身どおりに収まっている。打球の質から期待される防御率、いわゆる「xERA」は3.79で、実際の3.80とほぼ一致した。ずれているのは本塁打の本数のほうだった。推定より5.9本多い一発を、走者を出さない投球が防御率3点台に収めている。
ただ、一発の多さと走者の少なさが同居するのは今季に始まったことではない。昨季も被本塁打率1.93本に対して、与四球率は1.62個だった。しかもその一発は、球場を補正してもなお5.9本多い。数試合のぶれでは片づかない。
“崩れた日”は8月30日を最後に出ていない。8月までは3被弾の試合が6度、9月は3登板で被弾1本。同じ左腕が、2か月で別の投手のように見えている。
次の登板で、この左腕がどちらの顔で出てくるのか――。
カブスに残された試合は6試合。日本人最多の36本まで2本、田中将大の35本まで1本という位置で、球団は168回1/3を投げた左腕に、もう一度ボールを渡すことになった。MLB最多の被弾を抱えたまま、防御率3点台の先発を軸に据えられるかどうか。その判断のほうが、34本という数字より先にカブスへ返ってくる問いだった。
この記事の数字について
- 成績は MLB Stats API(
gameType=R)から取得した、2026年9月20日(米国時間)終了時点の数字。投球回はMLB表記の小数(168.1)ではなく、分数(168回1/3)に直して表記している。与四球率・被本塁打率は、それぞれ与四球・被本塁打÷投球回×9で算出した。 - 「MLB最多タイ」「319投手中21番目」は、同APIから2026年の全861投手を取得し、投球回の条件(それぞれ制限なし/50回以上)で絞って当サイトが集計したもの。被本塁打の3位はジェフリー・スプリングスの33本。
- 日本人投手のシーズン被本塁打の順位は、MLB Stats API から1964年以降に在籍した出生国が日本の投手を抽出し、全員の年度別成績(
yearByYear)を走査して比較した。シーズン途中の移籍による合算行を二重に数えないよう、アメリカン・リーグまたはナショナル・リーグの行だけを対象としている。34本以上は本文の3人だけで、4位以下はダルビッシュ有の2019年33本、菅野智之の2025年33本、吉井理人の2000年32本と続く。 - 打球の速さ・角度・バレルは Baseball Savant(Statcast、
hfGT=R)から取得した。割合と順位は同サイトの公式リーダーボード(打球50本以上)の値を、Stats API で投球回100回以上に絞った137投手の中で比べたもの。リーダーボードの集計は9月19日まで、投球回の条件は9月20日終了時点で、基準日が1日ずれている。「ハードヒット打球のうちバレルに達した割合」は、同リーダーボードのバレル数÷時速153キロ以上の打球数として当サイトが算出した。 - 被弾34本のバレル判定、塁状況、球場別・球種別・高さ別の内訳、および今季MLB全体の本塁打5341本のうちソロが57.8パーセントという数字は、Savant の1球データ(
statcast_search)を当サイトが集計した。いずれも9月19日までの集計。高さは、投球がホームプレート上を通過したときの地面からの高さ。 - 打球の速さと高さはマイル・フィートからメートル法に換算した(1マイル=1.609344キロ、1フィート=30.48センチ)。バレルの必要条件である98マイルは時速157.7キロに当たる。
- フォーシームの高さの区切りは、計測値のフィート表記で2.0/2.6/3.2フィートに置いた。センチに直すと60.96/79.25/97.54で、本文では約61/79/98センチと書いている。センチの整数で切り直すと1球ぶん帯をまたぐ打球があり、79〜98センチが2本から3本に動く。
- 順位に同率がある場合は、いちばん下の順位を採っている。バレル率9.7パーセントは3人が同率で23〜25位のうち25位、打球角度17.8度は2人が同率で22〜23位のうち23位とした。ハードヒット率の102位に同率はない。
- 「バレルのうち本塁打になった割合」だけは、母数をバレル15本以上の135投手としている。バレルが数本しかない投手が極端な割合で上位に入るのを避けるため。
- 「打球の質から期待される防御率」は Baseball Savant の xERA で、こちらも9月19日までの集計。
- 球場を補正した推定被本塁打28.1本、ナ・リーグ先発投手の平均防御率4.28、防御率のリーグ順位は中日スポーツ(2026年9月17日)の報道による。当サイトが算出したものではない。
- 監督と解説者の発言は報道によるもので、当サイトが取材したものではない。出典はマイナビニュース(2026年8月31日)および上記の中日スポーツ。デシェイーズ解説者は同じ発言のなかで防御率を3.88と挙げているが、これは9月16日の登板前の数字で、この試合を終えて3.80になった。
