浴びている一発の数は、増えていない――。ロッキーズの菅野智之は9月14日(日本時間15日)、本拠地クアーズ・フィールドでのパドレス戦に先発し、5回8安打6失点で降板した。8月11日に12勝目を挙げてから6度目の登板で、その間は0勝5敗、29回を投げて31自責点、防御率9.62。36歳の右腕は今季12勝10敗、勝ち星はチーム最多で、メジャーでの自己最多を2年目にして更新している。それでもシーズン防御率は5.49まで上がり、MLBのなかで少し変わった場所に立つことになった。
今季10勝以上を挙げた投手は44人いた。そのうち防御率が5点台なのは、菅野ただ1人。2位はアントニオ・センザテラの4.30である。勝ち星を12まで絞れば2位はマリナーズのブライアン・ウーの3.88で、菅野との差は1.61に開いた。投球回を140以上でそろえた65人で見ても、菅野より防御率が悪いのはカージナルスのマシュー・リベラトーレしかおらず、その勝ち星は5にすぎない。この失点の水準で12勝を並べた投手は、ほかにいない。ただし、その5.49は一年をかけて積もったものではなかった。
8月11日までの21先発、113回2/3で菅野の防御率は4.43だった。良くはないが、シーズンを通してこの水準なら、極端な数字ではない。ところが8月17日の登板から、6先発29回で31自責点。4.43が9.62になった1か月が、菅野のシーズンを別のものに変えた。チームは9月14日までに今季ワーストの8連敗を喫していた(翌15日のパドレス戦で連敗は止まった)。残りは11試合。ベンチはこの1か月を、球が荒れた結果として見ていた。
ウォーレン・シェーファー監督は9月8日、翌日にヤンキース戦の先発を控えた菅野を「コロラドでは過去5年間、どの投手もこれだけ勝っていない。標高の高さにも見事に対応している」と称えた(スポニチアネックス、9月9日配信)。菅野の12勝は、2021年のヘルマン・マルケス以来、ロッキーズの投手として最多タイの数字にあたる。そのうえで指揮官は、8月の不調の理由を「以前よりゾーンから外れる球が多くなっているから」と分析した。実際、菅野がストライクゾーン内に投げた割合は4月の48.9%から8月は43.9%へ、5.0ポイント落ちている。監督の見立ては、ここまでは数字と合っていた。
ところが同じ計測値は、その先で見立てから離れていく。ゾーンが減りはじめたのは8月ではなく7月で、7月の42.7%は今季で最も低い。そしてその7月、菅野は3先発すべてで勝ち投手になり、18回1/3を6自責点、防御率2.95で投げ抜いた。ストライクを取れた球の割合も、8月11日までの61.5%に対して8月17日以降は63.0%へ上がっている。ゾーンから外れる球の量だけでは、9.62には届かない。
空振りは増え、痛打は減っていた
もっとも、1球ごとのデータを8月11日で区切ると、投げる側の数字はむしろ良くなっていた。スイングされたうち空振りを奪えた割合は18.2%から20.5%へ、ゾーンの外に投げた球に手を出させた割合は26.8%から29.8%へ。どちらも上がった。打たれ方も、悪化とは言い切れない。平均の打球速度は145.7キロから147.9キロへ上がった一方、時速152.9キロ以上で弾き返された割合は43.5%から42.7%、本塁打になりやすい打球として区別されるバレルの割合は13.7%から6.4%へ下がっている。
被本塁打も動かなかった。菅野は8月11日までの113回2/3で24本、8月17日からの29回で7本を浴びており、9イニングあたりに直すと1.90本と2.17本。シーズン通算の1.96本は、今季140回以上を投げた65人のなかでワーストだった。ただしこれは昨季オリオールズで157回に33本、9イニングあたり1.89本という数字を残した投手で、渡米以来ずっと変わらない“形”だった。一発を浴びること自体は、この1か月の変化ではない。動いていたのは本数ではなく、一発の“中身”だった。
7月の5本と、8月17日以降の7本
7月の菅野は5本の本塁打を浴びている。9イニングあたり2.45本で、実は今季の月別で最も多い。それでも防御率は2.95に収まった。5本がすべてソロだったからだ。5本の被弾で、失点は5点。
一方、8月17日以降の7本が運んだ点は14点だった。8月17日に3ラン、8月28日に2ラン、9月9日のヤンキース戦では満塁本塁打、そして9月14日にも2ランを浴びている。8月11日までの24本は21本がソロで、運んだ点は27点。1本あたり1.13点だったものが、この1か月は2.00点になった。ソロの割合も87.5%から42.9%へ落ちている。
その手前で起きていたことは、打球の“行き先”に出ていた。走者を背負った場面で打たれた打球が安打になった割合は、8月11日までの.223に対し、8月17日以降は.435。一方、走者のいない場面では.278から.298へ、ほとんど動いていない。走者が出たあとの打球だけが、グラブの間を抜けるようになった。
ただし、これを運だけの話に片付けることもできない。50打球と母数は小さいが、走者を背負った場面の打球は平均142.9キロから148.2キロへ強くなり、152.9キロ以上の割合も34.7%から44.0%へ上がった。強い当たりが増えたのは、走者を置いた場面に限った話だった。それでも、9ポイントの打球の変化が.212もの上昇をまるごと説明するとは考えにくい。残るのは、走者を置いてからの菅野がなぜ一つ余計に打たれるのか、という問いだった。
2回に4点、走者なしで迎えた打者は2人
2回に4点を失った9月14日は、その問いがそのまま出た試合だった。初回は先頭のタティスJr.を右飛、ハリスを二ゴロに打ち取って2死無走者。ここでマチャドに1ボール2ストライクから投じた128.4キロのカーブを、左翼へ運ばれた。打球速度151.4キロ、飛距離118.3メートルの、走者のいないソロ。ここまでは、この1年くり返してきた形の内側にある。
問題は2回だった。先頭のメリルに右前打を許し、カンプサノを二飛に仕留めたあと、ボガーツに四球。1死一、二塁からクローンワースに右前へ勝ち越し打を浴び、フェルミンの中犠飛でもう1点。そして2死一塁、2ボール2ストライクからタティスJr.に投じた149.3キロのフォーシームは、ストライクゾーンの上段に入った。打球速度178.8キロ、飛距離136.9メートルの2ラン。この回に立った7人のうち、菅野が走者のいない状態で迎えたのは、先頭のメリルと、2ランで走者が消えたあとのハリスだけだった。
そして菅野はこの日、5回88球のうち60球をストライクにしている。四球は1つだけ、三振も2つだけ。3回に1点を失ったあと、4回と5回は無失点で切り抜け、先発投手としての責任投球回は投げ抜いた。それでも8安打は毎回で、報道は「常に塁上に走者を置く苦しい投球」と伝えている(スポニチアネックス、9月15日配信)。初回に一発を浴びた直後の菅野を、同メディアは「厳しい表情を浮かべ、わずかに首をひねった」と書いた。
7月は「5本すべてソロ」、8月11日までは「24本中21本がソロ」、そして8月17日以降は「7本のうち4本に走者がいた」。9イニングあたりの本数はむしろ7月の2.45本のほうが多い。それでも1本が運ぶ点だけが、1か月で倍になった。制球が落ちたのか。走者を背負ってからの投球が変わったのか。それとも、50打球の偶然が重なっただけなのか――。
1年を通した菅野は、四球で走者を出さない投手だった。与四球率5.5%はMLB全体の8.9%を3.4ポイント下回り、7月には71打席で四球1つという月も残している。走者を出さずに一発を浴びる投手は、ソロで済む。87.5%という8月11日までのソロの割合は、偶然ではなくこの投手の“形”だった。ところが、その形がこの1か月だけ崩れている。
原因を1つに絞ることはできない。50打球、7本。どちらも1本の差で大きく振れる母数だった。ただ、空振りはむしろ増え、痛打の頻度も被弾の頻度も動かないまま防御率だけが倍以上になったという事実は、「衰えた」で片付く形をしていない。問いは「なぜ打たれるのか」から、「なぜ走者が残るようになったのか」へ移りつつある。
ローテーション通りなら、残り11試合で回ってくる先発はあと2回前後だろう。「12勝」と「5.49」は、同じシーズンの同じ投手のもの。どちらが2026年の菅野智之だったのかは、この2登板では決まらない。判断の材料になるのは、走者を背負ってからの50打球のほうだ。ロッキーズが来季の先発陣を考えるとき、見るべきなのは勝ち星ではない。
この記事の数字について
- 成績はすべて MLB Stats API から取得した2026年9月14日(米国時間)終了時点のもの。レギュラーシーズンのみを対象とし、ポストシーズンは含まない。
- 「10勝以上44人」と、本文で触れた勝ち星12以上の24人は、2026年にメジャーで登板した全投手から勝利数で抽出したもの。防御率の比較も同じ母集団による。10勝以上で2番目に防御率が悪いのはアントニオ・センザテラの4.30だが、これはロッキーズとブルワーズを合わせた69回の合算値である。なお未丸めでは4.3043で表示上の4.30をわずかに上回るため、本文では「4.30超」ではなく「5点台」で切った。投球回でそろえた比較として、140回以上の65人も併記した。
- 「12勝は2021年のヘルマン・マルケス以来、ロッキーズの投手として最多タイ」はスポニチアネックスの報道にある記述で、当サイトでも Stats API により確認した。2022年から2025年までの球団最多勝は、いずれも9勝以下である。
- 「8月11日まで」は21先発113回2/3・56自責点で防御率4.43、「8月17日以降」は6先発29回・31自責点で防御率9.62。8月12日から16日までの登板はない。
- 1球ごとの計測値は Baseball Savant の2026年レギュラーシーズン(
hfGT=R)のデータを集計した。区間は9月14日の登板を含む6先発で、投球時計違反などによる自動ボール・自動ストライクを除いた投球数は、8月11日までが1811球、8月17日以降が549球。試合数・投球回・自責点・被本塁打の通算は Stats API の値を使っている。 - 空振り率はスイングに占める空振りの割合で、スイングは空振り・ファウル・打球・ファウルチップ・空振りバントを、空振りは空振り・ファウルチップ・空振りバントを数えた。「ゾーンの外に手を出させた割合」はゾーン外に投じた球のうちスイングされた割合。
- 打球に関する数字は、打席の結果になった打球のみを対象とし、犠打・三振・四死球を除いた。対象は8月11日まで379打球、8月17日以降110打球。走者ありに限ると124打球と50打球。犠飛は打球に含め、犠打は除いた。
- 本文中の「痛打」は、打球速度152.9キロ(95マイル)以上で弾き返された打球を指す。一般にハードヒットと呼ばれる区分である。
- バレルは打球速度と角度の組み合わせで区切られる、本塁打になりやすい打球の分類。該当したのは8月11日まで52本、8月17日以降7本で、後者は1本の増減で0.9ポイント動く母数である。本文で断定に使っていないのはこのためで、打球の質については152.9キロ以上の割合と平均速度のほうを主に見た。
- 「打球が安打になった割合」は、本塁打を除く打球のうち単打・二塁打・三塁打になった割合。一般にBABIPと呼ばれる指標で、投手の技量だけでなく守備と偶然が大きく影響する。走者ありの50打球は、本塁打4本を除いた46が分母なので、1本増えるだけで約2.2ポイント動く。被弾7本の走者状況も、1本違えばソロの割合が14ポイント変わる。
- 走者の有無は、その打席の開始時点で一塁・二塁・三塁のいずれかに走者がいたかで分けた。
- 9月14日にタティスJr.が本塁打にした149.3キロのフォーシームは、Stats API のプレーバイプレーでゾーン2(ストライクゾーンを9分割した上段中央)に記録されている。マチャドが本塁打にした128.4キロのカーブはゾーン4(中段の内寄り)だった。
- 月別のゾーン率は、Savant の1球データを暦月で区切って集計した。7月は3先発253球と母数が小さい。
- 月別の被本塁打率(9イニングあたり)は3月1.93本、4月1.33本、5月2.02本、6月1.73本、7月2.45本、8月2.35本、9月2.12本。7月が今季で最も高い。
- 与四球率は与四球を対戦打者数で割ったもの。菅野は今季5.5%(34/614)、昨季5.3%(36/675)。MLB全体の8.9%は、30球団の投手成績を合算して算出した。
- シェーファー監督の発言と9月14日の試合描写は、スポニチアネックスの報道によるもので、当サイトが取材したものではない。発言は原文の一部を引用した。監督の発言は9月8日(日本時間9日)の取材によるもので、菅野が先発した翌9日のヤンキース戦の前日にあたる。記事は9月9日配信。9月14日の試合記事は9月15日配信。
- 「クローンワースの右前打が勝ち越し打」「8安打は毎回」「初回の被弾直後の表情」も、同じくスポニチアネックスの報道による。対戦相手・得点経過・打球方向・カウント・球種は Stats API のプレーバイプレーでも確認した。
- マイルはキロ、フィートはメートルに換算した(1マイル=1.609344キロ、1フィート=0.3048メートル)。投球回はMLB表記の小数を3分の1単位に直している。
- 「走者を置いてからの打球の強さの変化だけでは、打球が安打になった割合の上昇を説明できない」は当サイトの推論である。両者の関係を定量的に検証したものではない。
