1番に戻ったから打ち始めたのではなかった――。ドジャースのムーキー・ベッツは18日から3試合続けて1番に入り、その2試合目の19日(日本時間20日)、本拠地ジャイアンツ戦で4打数4安打、うち3本が二塁打だった。9月は17試合で打率.373、本塁打6本、OPS1.215と、8月のOPS.714から数字を一変させた。大谷翔平が右上腕二頭筋の炎症で負傷者リストに入った後も、出場11試合で打率.381、本塁打4本と打線を引っ張った。1球ごとの計測値をたどると、変わったのは振りの速さでも、芯に当てる割合でもなかった。
もともと、ベッツはドジャースの1番打者だった。2022年は1番で636打席、2023年は691打席に立ち、1番でのOPSは.987。2024年も1番で331打席に立ったが、この年を境に1番は大谷の場所になった。2025年に1番で立ったのは53打席、今季も9月までは5月13日と6月4日の2試合だけ。ロバーツ監督は1番に戻した理由を「ムーキーは今バットが振れているし、キャリアを通じて何度も1番を打ってきた。だから自然な選択だと思う」と語ったと、サンケイスポーツ(9月20日)が伝えている。
1番に入る12日前から
監督が理由の最初に挙げたのは、1番の経験より今の好調のほうだった。数字もそれを裏づけていた。9月1日から6日までの6試合で、ベッツはすでに25打数9安打、本塁打2本。1番に入ったのは13日が最初で、続けて入ったのは18日からの3試合だった。打順が好調を生んだのではなく、好調が打順を連れてきた形だった。
ただし、1番での数字は大きく見えて母数が小さい。1番で先発した9月の4試合は19打席で16打数9安打、打率.563。そのうち4安打は、19日の1試合で稼いだものだった。9月に1番以外で出た13試合も、60打席で打率.314、OPS1.025と、8月のOPS.714を大きく上回っていた。
振りの速さも、芯に当てる割合も8月と同じ
だが打球の結果だけを見ると、8月と9月は別の打者だった。打球の速さが時速152.9キロ以上の「強い打球」で比べた。8月は前に飛んだ打球93本中29本で31.2パーセント。9月は60本中29本で48.3パーセントだった。打球の速さと角度が長打になりやすい組み合わせに入った「バレル」も、93本中4本の4.3パーセントから60本中8本の13.3パーセントへ。どちらも8月が今季の月で最低、9月が最高だった。
ところが、振り方の数字はほとんど動いていない。Statcastが計測した振りの速さの平均は、8月が時速113.0キロ、9月が112.3キロ。しかも、今季スイングが100以上ある打者513人のなかで、ベッツは中央値115.7キロを下回る405位。もともと「速く振って打つ」打者ではない。バットの芯に当てた割合も、8月の45.0パーセントに対して9月は46.7パーセント。今季を通した46.4パーセントは513人中2位で、ベッツは球界屈指の“芯に当てる打者”のままだった。
違いは、芯に当てた当たりの中身に出ていた。Statcastは、芯にどれだけ近く当てたかと振りの速さを足し合わせ、一定の基準を超えた当たりを「ブラスト」と呼んでいる。芯のど真ん中なら少し遅い振りでも届き、速い振りなら多少ずれても届く仕組み。ベッツの振りの速さでは、ほぼ完璧に芯でとらえないと届かない。芯に当てた当たりのうち、この“会心の当たり”に届いたのは、8月は4本に1本だったのが、9月は2本に1本近くになった。バットに当たった打球全体に占める割合でも、11.5パーセントから21.1パーセントへ倍近い。振りの速さを上げないまま、“会心の当たり”だけが倍近くに増えた。平均の振りの速さが上がっていない以上、増えたのは“ほぼ完璧な当たり”のほうだと見るのが自然だった。もっとも、速く振れた打席で芯に当たる回数が増えた分もありうる。平均の数字だけでは、その2つを完全には分けられない。
8月の3.85点から5.79点へ
一方で、チームの得点も9月に戻った。ドジャースの1試合平均得点は、4月が5.58点、5月が5.25点、6月が5.44点。7月の4.38点、8月の3.85点と夏に沈み、9月は5.79点まで戻した。春の3か月も、ほぼ同じ水準で点を取っていた。ただし9月はまだ19試合で、1か月の平均は、数試合の大量点で大きく動く程度の母数でしかない。戻り始めた打線のなかで、ベッツは「9月1日から」打っていた。
もっとも、9月の打球は60本しかなく、これが本物か一時の波かはまだ決められない。それでも打ち始めたのは1番に入る前で、打順の入れ替えでは説明がつかない。問いは「ベッツは1番が合うのか」から、「9月の当たり方が10月まで続くのか」へ移りつつある。
大谷が最短で戻れるのは9月23日で、ドジャースのレギュラーシーズンは27日まで残り6試合。ロバーツ監督は「彼が戻ってくるときは、1番を考えている」と話し、「その後は、相手投手の左右のマッチアップも考慮して変える可能性もある」とも付け加えたと、日刊スポーツ(9月20日)が伝えた。
ベッツは打順が変わっても、9月1日からの当たりを続けられるのか。“会心の当たり”が8月の倍近くに増えたベッツを、大谷が戻ったとき打順のどこに置くのか――。その答えを、ドジャースはポストシーズンまでに出さなければならない。
この記事の数字について
- 成績と打順は MLB Stats API(
gameType=R)から取得した、2026年9月20日(米国時間)終了時点の数字。打順は各試合のボックススコアのbattingOrderで確認した。今季ベッツが1番で先発したのは5月13日・6月4日・9月13日・18日・19日・20日の6試合で、1番での打席は計27。本文の「1番で先発した9月の4試合の19打席」は9月の4試合のもの。 - 年度別の1番での打席数とOPSは、同APIの打順別成績(
sitCodes=b1)による。 - 大谷翔平の負傷者リスト入りは同APIの選手異動記録(
transactions)による。9月11日に15日間の負傷者リストに入り、9月8日にさかのぼって適用された。最短で復帰できるのは9月23日。大谷が9月に出場したのは1日・2日・7日の3試合で、3〜6日は欠場していた(同APIのgameLog)。 - 「強い打球」「バレル」は Baseball Savant(Statcast、
hfGT=R)の1球データを当サイトが月別に集計した。「強い打球」は打球の速さが95マイル(時速152.9キロ)以上、割合の分母は前に飛んだ打球数。9月20日まで。 - 振りの速さ・芯に当てた割合(squared-up)・ブラストは、Baseball Savant の公式バットトラッキング・リーダーボードを月ごとの期間で取得した値。振りの速さは同サイトの定義による「打ちにいったスイング(competitive swings)」の平均で、1球データの全スイングを単純平均した値とは異なる(単純平均では8月111.2キロ、9月107.4キロと差が大きく出るが、遅い当てにいくスイングの数に左右されるため、本文では公式の値を使った)。
- 芯に当てた割合は、1球ごとに「その振りの速さと球速で出せる最大の打球速度の8割以上か」で数えた率で、8割でも10割でも同じ1本と数える。ブラストは MLB.com の公式用語集の定義で「芯に当てた度合い(パーセント)×100+振りの速さ(マイル)が164以上」("[squared-up percentage] x 100 + [bat speed] >= 164")。両者の平均が82以上、と言い換えられる。ベッツの今季の平均70マイル前後なら、芯の度合い94パーセント以上が要る。どちらもバットに当たった打球あたりの割合。「芯に当てた当たりのうちブラストに届いた割合」は、ブラストの割合÷芯に当てた割合として当サイトが算出した(8月11.5÷45.0=25.6パーセント、9月21.1÷46.7=45.2パーセント)。
- 「スイングが100以上ある打者513人」は、同リーダーボードで今季(3月1日〜9月20日)のスイングが100以上の打者。
- 速さはマイルからキロメートルに換算した(1マイル=1.609344キロ)。
- ドジャースの月別得点は、同APIの試合日程(
schedule)から各試合のスコアを集計した。 - 監督の発言は報道によるもので、当サイトが取材したものではない。出典はサンケイスポーツ(2026年9月20日)および日刊スポーツ(2026年9月20日)。同じ会見の発言が2紙で違う訳になっているため、本文では別々の発言を1紙ずつから引いた。サンケイスポーツが報じた「9月6本塁打・18打点」は9月18日終了時点の数字で、20日終了時点では6本塁打・20打点になる。
