実力の問題だけでは、説明がつかなくなってきた――。エンゼルスの菊池雄星が、あと1勝で日本人投手7人目のMLB通算50勝に届くところまで来ている。ところが通算成績は49勝64敗で、球団に残された試合は7つしかない。直近9月16日(日本時間17日)の本拠地マリナーズ戦は4回1/3を自責4、今季6敗目だった。先に50勝へ達した6人と菊池を分けたのは、マウンドの上の数字だけではない。
日本人がMLBで通算50勝に届いた例は、野茂英雄の123勝から松坂大輔の56勝まで6つあった。菊池の49勝はその次に位置し、7人目の椅子に手をかけたまま9月を迎えた。ところが7人を並べると、この投手だけが違う形をしている。6人は全員が勝ち越しているか五分で、負け越したまま節目へ近づいているのは菊池ひとり。15の負け越しが、そのまま“王手”の中身になっている。
同じ防御率、逆の勝敗
7人のなかで、菊池に最も近い数字を残したのは松坂大輔だった。通算防御率は松坂4.45、菊池4.49で、差は0.04しかない。ところが勝敗は松坂の56勝43敗に対し、菊池は49勝64敗で並ばない。投球回はむしろ菊池の1045回1/3が松坂を255回上回った。1勝を挙げるのに要した投球回を割り出すと、松坂の約14回に対して菊池は約21回だった。1先発ぶんを超える回数を余計に投げないと“勝ち星”がつかない。
在籍中のチーム勝率
では何が違ったのか。7人それぞれについて、在籍した各シーズンのチーム成績を足し合わせてみた。
| 投手 | MLB通算 | 通算防御率 | 在籍中のチーム勝率 |
|---|---|---|---|
| 田中将大 | 78勝46敗 | 3.74 | .563 |
| ダルビッシュ有 | 115勝93敗 | 3.65 | .541 |
| 黒田博樹 | 79勝79敗 | 3.45 | .533 |
| 松坂大輔 | 56勝43敗 | 4.45 | .530 |
| 野茂英雄 | 123勝109敗 | 4.24 | .514 |
| 岩隈久志 | 63勝39敗 | 3.42 | .502 |
| 菊池雄星 | 49勝64敗 | 4.49 | .489 |
通算50勝に届いた6人は、在籍シーズンのチーム成績を合算すると全員が勝率5割を超えていた。最も低い岩隈久志でも.502で、かろうじて5割の側にとどまった。菊池だけが.489と5割を割り、在籍中の所属球団を合わせると通算660勝688敗だった。28の負け越しである球団群のなかで、8シーズンを投げてきた。
菊池自身の年度別を開くと、上と下の差がはっきり出る。最も勝ったのは2023年ブルージェイズでの11勝6敗で、チームは89勝73敗(.549)。最も勝てていない今季エンゼルスは1勝6敗で、チームは60勝95敗(.387)。6勝11敗だった2019年マリナーズも68勝94敗(.419)で、2019年と今季はいずれも90敗以上のチームでの1年だった。
ただし単年で必ず対応するわけではない。チーム勝率が最も高かった2022年ブルージェイズ(92勝70敗・.567)で6勝7敗、90勝72敗(.555)の2021年マリナーズでも7勝9敗と負け越した。差が現れるのは、8シーズンぶんを足し合わせたときだ。
残り7試合
一方、今季の菊池は4月29日のホワイトソックス戦で左肩に張りを訴え、5月3日に負傷者リスト入り、22日には60日間の負傷者リストへ移っている。戻ったのは8月23日だった。復帰後5登板の防御率は4.10で、離脱前7登板の5.81より1.71良い。防御率を1.71縮めても、5登板で挙げた白星は1つだった。9イニングあたりの与四球が離脱前の4.06から4.78へ増えており、投球の中身まで戻りきったとは言いがたい。
2019年と2020年は「68勝94敗と27勝33敗のマリナーズで6勝11敗、2勝4敗」。2023年は「89勝73敗のブルージェイズで11勝6敗」。そして今季は「60勝95敗のチームで1勝6敗」。技術が落ちたのか。“居場所”がそうさせたのか。それとも、その両方なのか――。
もっとも、在籍チームの勝率だけで“勝ち星”が決まるわけではない。通算防御率4.49は7人のなかで最も悪く、そこを他人のせいにはできない。ただ、ほぼ同じ4.4台の防御率で56勝43敗を残した投手が実在する以上、勝利数が投手個人の何を測っている指標なのか、素直に信じていられる段階ではなくなった。問いは「菊池は勝てる投手か」から、「勝利数は何を数えている指標か」へずらしたほうが実像に近い。
残り7試合。エンゼルスは米国時間9月20日にツインズ、22日と23日にアスレチックス、そして24日からマリナーズとの4連戦を残した。中5日なら次は22日のアスレチックス戦。もう1度投げるには、中4日で最終カードに回る必要がある。そこに7人目の名前が刻まれるか、“王手”のまま冬を越すか。決めるのは菊池の腕だけではなく、60勝95敗のチームが最後の7試合をどう戦うかでもある。8シーズンを足し合わせた“居場所”は、ついに5割の内側に入らなかった。
この記事の数字について
- 選手成績・チーム成績・年度別・ゲームログ:MLB公式 Stats API(2026年9月20日時点・シーズン進行中)
- 在籍中のチーム勝率:各投手が登板したシーズンの所属球団のレギュラーシーズン成績を、当サイトが合算して算出したもの。MLB公式の集計項目ではない。シーズン途中に移籍した年は、移籍先・移籍元の双方の年間成績をそれぞれ加算している(菊池の2024年はブルージェイズとアストロズの両方)
- 1勝あたりの投球回:通算投球回 ÷ 通算勝利数。当サイトの独自算出
- 通算成績はレギュラーシーズンに限る(
gameType=R)。ポストシーズンは含まない - 「日本人投手で通算50勝以上」は、当サイトが収録する日本人メジャーリーガーを走査した結果によるもの
- 投球回はMLB表記の小数を分数へ直して表記している(5.2回=5回2/3)
