打率が語っているのは、この打者の半分でしかない――。ホワイトソックスの村上宗隆は9月19日(日本時間20日)の本拠地タイガース戦に4番一塁で出場し、4打数1安打1打点2三振。初回の左前適時打で安打は87本になったが、四球88が上回ったまま9月14日から6試合。32本塁打を放ちながら打率.203というMLB1年目の打者に、400打席以上を踏んだ199人でも、日本人打者が400打席以上に達した59シーズンでも例のない順序が生まれている。これを作ったのは、相手の警戒ではなかった。
誰もが思いつくのは、相手が勝負を避けているという説明だ。ところが、9月18日までに村上が見た2278球のうち、ストライクゾーンを通ったのは46.2%(1053/2278)。同じ数え方で鈴木誠也は47.2%(1225/2595)、カイル・シュワーバーは45.6%(1289/2829)。村上だけが避けられているわけではない。敬遠も88個のうち8個しかない。歩かされているのではなく、村上が自分から“歩いて”いた。
まず、ボール球を振らない。ゾーンの外に来た球のうち、村上がスイングしたのは22.4%(274/1225)しかない。選球眼で知られる鈴木誠也も、同じ9月18日までで数えると22.4%(307/1370)。小数第1位まで並んでいた。シュワーバーの25.7%(396/1540)より慎重で、“振らない”ことにかけては鈴木誠也と同じ水準にいた。
もっとも、それだけでは四球88には届かない。同じように振らない鈴木誠也の四球率は12.9%(78/606)で、村上の16.9%(88/521)に4ポイント届かない。差が出ているのはカウントの進み方のほうだ。3ボールまで行った打席の割合は村上が31.4%(160/510)、鈴木が28.1%(168/598)。そこから四球になった割合も50.0%(80/160)対43.5%(73/168)で、村上のほうが上だった。
では、3ボールまで行くのは打席が長いからか。それも違う。1打席あたりの球数は村上4.41球、鈴木4.31球、シュワーバー4.26球とほとんど変わらない。しかも、いちばん球数の少ないシュワーバーの四球率14.5%(96/664)は、鈴木の12.9%より高い。粘って歩いているのでもない。
ところが、その村上が、振ったストライクには当たらない。空を切る割合は30.8%(199/647)に達する。鈴木誠也は11.1%(81/731)、三振の多いシュワーバーですら19.9%(170/854)だった。ゾーンのど真ん中に来た球を振ったときも、村上は22.0%(26/118)で空を切った。4〜5スイングに1回。鈴木誠也の7.2%(11/152)の3倍だった。
同じ目で球を選び、同じように見送り、振ったストライクだけに当たらない。 だが、振る力そのものが弱いわけではない。計測値のあるスイングで平均したバットの速さは116.8キロで、鈴木誠也の114.5キロを上回る数字だった。速さと角度の組み合わせが本塁打になりやすい帯に入った打球の割合は18.8%(45/240)だった。45本塁打のシュワーバーの16.2%(56/346)より高い。減ったのは、当たる回数のほうだった。
結果として、村上の打席では野手のところへ球が飛ばない。四球88、三振187、本塁打32を足すと307になり、521打席の58.9%を占めた。400打席以上の199人で最も高い。三振率35.9%(187/521)も、87安打に占める本塁打32本の割合36.8%も、同じ199人のなかで1位。打率.220に届かずにOPSが.800を超えている打者も、199人のうち村上しかいない。
四球が安打を追い抜いたのは、ここ1か月半の出来事。7月末までの262打数は64安打で打率.244、四球58に対して安打64と、打った数のほうが多かった。しかし8月以降は166打数23安打の打率.139に落ち、三振83に対して四球30。9月の74打席では安打8本に三振37個、打率は.125まで下がった。「四球のほうが多い」状態が動かなくなったのは、9月14日から。
ただし、四球の側はむしろ減っている。打席に占める四球の割合は7月末までの18.0%(58/322)から8月以降は15.1%(30/199)へ下がった。順序が入れ替わったのは、四球が増えたからではない。インプレーの打球が安打になる割合が.296(40/135)から.200(15/75)へ落ちて、安打だけが先に消えた。
空振りの“率”は、8月より前からすでに高い。ストライクを振ったときの空振りは、7月末までで30.0%(124/413)だった。8月以降は32.1%(75/234)で、ほとんど動いていない。
相手の攻め方も変わっていない。ゾーン率は46.4%(651/1402)から45.9%(402/876)へしか動いていない。速球の割合は48.1%(674/1402)から47.5%(416/876)へ。どちらも動きは1ポイント以内だ。
それでも、当たったあとの中身は落ちている。シーズンの平均では鈴木誠也を上回るバットの速さも、自分自身の前半とくらべれば117.7キロから115.3キロへ下がった。強い当たりの割合は60.4%(96/159)から46.9%(38/81)へ落ちた。
三振率は32.3%(104/322)から41.7%(83/199)へ跳ねた。ただし内訳を分けると、見逃し三振は27個から19個へ減った。打席に占める割合は8.4%(27/322)から9.5%(19/199)へ、1.1ポイント動いただけ。残りは空振り三振で、23.9%(77/322)から32.2%(64/199)へ増えた。スイングあたりの空振りは動かないまま、その空振りが三振として終わる回数だけが増えている。
打順と起用も動いている。5月中旬から9月3日まで2番に固定されていた村上は、4日から3番へ、12日からは4番へ。ガーディアンズとの地区首位攻防戦では、15日に4打数無安打4三振を喫した。翌16日の第3戦は先発から外れ、味方の死球による交代で5回から一塁に入っている。7月10日に右ハムストリングの故障から復帰して以降、スタメンを外れたのは3度で、うち2度が9月に入ってから。
ウィル・ベナブル監督は15日の逆転サヨナラ負けのあと、こう述べている。「打順を動かしたからといって、魔法のようにスイングが直るわけではない」。そのうえで「最善の可能性を求めて打線を組むなかで、彼は依然としてその一部だ」と続けた。16日に先発から外した理由は「率直に言って、休ませるためだ」(いずれもシカゴ・サンタイムズ、米国時間9月15日・16日)。
それでも17日、5番に下げられた村上は32号3ランと三塁打を放ち、翌18日には4番へ戻った。本人にも自覚はあったようだ。ヒューストン遠征中、自分のスイング軌道が上向きになりすぎていたと感じていた、と村上が語っていたことを、球団の打撃ディレクターについて書いた記事が伝えている(シカゴ・サンタイムズ、米国時間9月9日)。
ど真ん中で空を切った今季いちばん遅い1球は、復帰初戦にあった。7月10日、初回の第1打席。その初球、真ん中に入ってきた126キロのスライダーを、時速122キロのスイングで空振りした。
19日の最後の打席も、形は同じだった。8回に2ボール1ストライクから141キロのカッターへ空を切り、続く137キロのチェンジアップも届かずに三振。球の速さの問題ではなかった。
7月末までは「選んで、当てて、飛ばす」打者だった。8月以降は「ボール球に手を出さないところは同じで、当たらない」。故障明けの体が振り出しを遅らせているのか。リーグの投手陣と2巡3巡してきた結果なのか。それとも、その両方なのか――。
もっとも、6試合ぶんの数字は振れ幅のうちでもある。1試合で3三振も2四球も起こりうる打者だけに、これで原因を1つに絞れるわけではない。ただ、打率.203という数字だけを見て「打てない1年目」と片付ける段階ではなくなった。問いは「なぜ打てないのか」から、「なぜ選べるのに“当てる”ときだけ届かないのか」へ移っている。
そして残り7試合。安打をあと1本足せば「四球が上回る」は消え、2本で「四球が安打以上」も外れる。消えなければ、日本人打者が59シーズンかけて一度も残さなかった順序が、そのまま記録に残る。選ぶ目も、当たったときの飛距離も残っている。ガーディアンズを1ゲーム差で追う2位のホワイトソックスの4番に足りないのは、打率ではなくバットに当たる回数のほうだ。
この記事の数字について
- 打撃成績は MLB Stats API から取得した2026年9月19日(米国時間)終了時点のもの。レギュラーシーズンのみを対象とし、ポストシーズンは含まない。試合日は米国時間で表記し、本文で「(日本時間20日)」と付した9月19日の試合だけ日本時間を併記した。
- 1球ごとの計測値だけは9月18日までで揃えている。 Baseball Savant が9月19日の試合をまだ取り込んでいないためで、打撃成績(9月19日まで)とは1試合ぶんずれている。3人とも同じ9月18日までで揃えたうえで比べた。村上の9月19日の19球を Stats API の
playByPlayから足すと、ゾーン率46.2%(1062/2297)と1打席あたりの球数4.41は動かないが、ボール球へのスイングは22.5%(278/1235)、ゾーン内スイングの空振りは30.7%(201/654)、全スイングの空振りは40.1%(374/932)、ど真ん中の空振りは22.7%(27/119)になる。本文で「小数第1位まで並んでいた」とした鈴木誠也とのボール球へのスイングは、村上だけ9月19日を足すと22.5%になり並ばない。鈴木誠也とシュワーバーの9月19日も同じく未取り込みのため、3人を揃えられる最新の基準日が9月18日だった。 - 9月18日終了時点の3人の打席数は村上517、鈴木誠也602、シュワーバー664で、本文の「1打席あたりの球数」はこれを分母にしている。いっぽう「3ボールまで行った打席」の分母は、計測された投球が1球以上あった打席(村上510、鈴木誠也598)。村上は故意四球8のうち7つが1球も投じられずに終わっていて、その差が7打席ぶんになる。
- 本文に挙げた9月19日の球種と球速(141キロのカッター、137キロのチェンジアップ)は、Savant ではなく Stats API の
playByPlayから取った。「ど真ん中で空を切った今季いちばん遅い1球」は9月18日までの Savant で判定しているが、9月19日に村上が空を切った4球はいずれも時速84.9マイル(約136.6キロ)以上で、7月10日の78.3マイル(約126.0キロ)を下回らない。 - 村上宗隆の2026年は120試合521打席428打数87安打、打率.203、出塁率.344、長打率.465、OPS.809、32本塁打69打点、四球88(うち故意四球8)、死球4、犠飛1、三振187。ホワイトソックスは155試合を消化して79勝76敗、ガーディアンズ(80勝75敗)を1ゲーム差で追う地区2位で、残り7試合。
- 「400打席以上の199人」は、2026年シーズンの打撃成績を Stats API から
playerPool=Allで取得し、9月19日終了時点で打席400以上の打者を抽出したもの。399打席の選手が3人いるため、翌日には人数が動く。この199人のうち四球が安打以上の打者は村上だけ。本稿では「四球が安打以上(≧)」を条件とし、本文とタイトルの「上回る」は村上の88対87(>)を指している。三振率は村上35.9%(187/521)、コルソン・モンゴメリー35.4%(216/611)、オニール・クルーズ33.8%(136/402)の順。安打に占める本塁打の割合は村上36.8%(32/87)、シュワーバー34.4%(45/131)、ハンター・グッドマン31.7%(38/120)の順。四球・三振・本塁打の合計が打席に占める割合は村上58.9%(307/521)、ニック・カーツ55.5%(241/434)、シュワーバー53.5%(358/669)の順で、いずれも村上が1位。四球率は16.9%(88/521)で、カーツの18.2%(79/434)に次ぐ2位。打率.220未満かつOPS.800以上も村上のみ。この抽出条件は当サイトが決めたもので、公式の規定打席(162試合×3.1=502打席)とは異なる。 - 「日本人打者の59シーズン」は、当サイトが持つ日本人MLB打者の名簿をもとに、Stats API の
yearByYear(レギュラーシーズン)から400打席以上のシーズンを抽出して数えたもの。イチローの2012年のようにシーズン途中で移籍した年は、球団別の行と合算行の両方が返るため、合算行だけを数えて1シーズンとした(素朴に行数を数えると60になる)。村上の2026年を含めて59シーズンあり、四球が安打以上になった例は村上のほかにない。内訳はイチロー14、松井秀喜7、大谷翔平7、鈴木誠也5、福留孝介4、松井稼頭央4、青木宣親4、井口資仁3、城島健司3、岩村明憲2、吉田正尚2、田口壮1、新庄剛志1、岡本和真1、村上宗隆1。安打に対する四球の比率が最も高かったのは福留の2009年で93/129=0.721、次いで大谷の2021年が96/138=0.696。村上は88/87=1.011。二刀流の大谷は打者としての成績で数え、日本生まれでも国籍が米国の選手(デーブ・ロバーツら)は名簿に含めていない。 - 1球ごとの計測値は Baseball Savant の
statcast_searchから2026年のレギュラーシーズン(hfGT=R)を取得し、投球時計違反などによる自動ボール・自動ストライク(球種が記録されない行)を除いて数えた。9月18日までで村上2278球、鈴木誠也2595球、シュワーバー2829球。 - ストライクゾーン率はゾーン1〜9に入った球の割合。ボール球へのスイング(チェイス率)はゾーン11〜14に投じられた球に対するスイングの割合。「ど真ん中」は Savant のゾーン5を指す。速球は4シーム(FF)・シンカー(SI)・カッター(FC)の合計。
- 本文の空振り率は、ゾーン1〜9に投じられた球を振ったスイングに占める空振りの割合を指す(村上の30.8%は199/647)。スイングは空振り・ファウル・ファウルチップ・インプレーを数え、空振りは空振りと捕手が止めきれなかった空振り(
swinging_strike_blocked)を数えた。ファウルチップはバットに当たっているためスイングには数えるが、空振りには含めない。ゾーンを問わない全スイングで数えると村上は40.2%(370/921)になる。 - 三振の内訳は、最後の1球が見逃しだったか空振りだったかで分けた。9月18日までは Savant の1球データで、9月19日の2三振だけは Stats API の
playByPlayで判定している(いずれも空振り三振)。ファウルチップで終わった三振は空振りに数えた。 - 強い当たり(ハードヒット)は打球速度95マイル(約152.9キロ)以上の打球。「速さと角度の組み合わせが本塁打になりやすい帯に入った打球」は Savant の
launch_speed_angleが6の打球(バレル)を指す。インプレー打球は犠打を除き、犠飛は含めた。村上の打球240本のうち速度の計測値があるのは238本。バレル率と強い当たりの割合の分母は打球本数(240本・159本・81本)で、計測値のない2本を含む。 - バットの速さは Savant の
bat_speedで、計測値のあるスイングだけを平均した。村上は913スイング(7月末まで572、8月以降341)、鈴木誠也とシュワーバーはそれぞれ全期間の平均。全スイングに値が付くわけではない。 - 時期別の比較は、1球データが7月末まで1402球・打球159本、8月以降876球・打球81本。打撃成績は7月末まで74試合322打席262打数、8月以降46試合199打席166打数。8月以降の打球81本は母数が小さく、1本の増減でバレル率が1.2ポイント動く。本文で挙げたバットの速さと打球の質の低下は、打率との因果までは示していない。当サイトが持っているのは計測値と起用の記録だけで、体の状態そのものを確かめる手段はない。
- インプレーの打球が安打になる割合(BABIP)は、打数から三振と本塁打を引いて犠飛を足したものを分母にした。7月末まで.296(40/135)、8月以降.200(15/75)。この項目だけは Stats API の打撃成績から算出しており、1球データからは数えていない(今回は両者が同じ値になることを確認した)。
- 打順と先発落ちは、Stats API の
scheduleにhydrate=lineupsを付けて155試合ぶんのスタメンを取得し、村上が含まれない試合を数えたもの。今季の先発出場は115試合で、先発を外れたのは4月7日、5月5日、5月30日から7月9日までの故障者リスト期間、8月13日、9月11日、9月16日。復帰後に限ると3度。9月16日はコルソン・モンゴメリーが4回に死球を受けた交代で、村上が5回から7番・一塁に入り、6回に二塁ゴロ、8回に四球で1打数無安打1四球だった。 - 故障の経緯は Stats API の
transactionsによる。5月30日に右ハムストリングの肉離れ(right hamstring strain)で10日間の故障者リストに入り、7月7日からマイナーのシャーロットでリハビリ出場をはさんで、7月10日に復帰した。 - 9月19日(米国時間)のタイガース戦は3-1でホワイトソックスが勝った。村上の4打席の内訳は、初回に3球目のカーブを左前へ運ぶ適時打、4回に6球で空振り三振、6回に5球で二塁ゴロ、8回に5球で空振り三振。17日の同カードは3-1で勝ち、村上は4打数2安打3打点で32号3ランと三塁打。18日は8-11で敗れ、4打数無安打1四球2三振だった。9月15日(同)のガーディアンズ戦は6-7で、9回に本拠地側が2点を返しての逆転サヨナラ負け。村上は4打数無安打1四球4三振で、これが今季6度目の1試合4三振だった。
- ベナブル監督の発言は、シカゴ・サンタイムズ(ジェームズ・フィーガン記者、米国時間2026年9月15日・16日配信)の報道によるもので、英語の発言を当サイトが訳し、原文の一部のみを引用した。村上がスイング軌道について語ったとされる部分は、同紙9月9日配信の記事に間接話法で書かれているもので、発言そのものの引用ではない。発言日も特定されていないため、本文でもカギカッコを使っていない。いずれも当サイトが取材したものではない。
- マイルはキロに換算した(1マイル=1.609344キロ)。換算は生の計測値から一度で行い、途中で丸めていない。
